『大人のための図鑑 毒と薬』2015/4/18
鈴木 勉 (監修)

 生物を死に至らしめるような「毒」と、病を治す「薬」は表裏一体。すべての物質は毒にもなり、薬にもなる……毒と薬の図鑑です。
「プロローグ1」は「世にも危険な有害生物」。毒ヘビや毒ガエルなど高い毒性を持つ恐ろしい動物たちがフルカラーで登場(泣)。でも幸い、日本にいる有害生物は少なそう……と思っていたら……いました! 解毒性がない毒を持つ「ヒョウモンダコ」! 「フグ」に「カツオノエボシ」……やっぱり日本にも危険な有害生物はたくさんいます……。
 驚いたのが「カモノハシ」。平和そうなイメージと裏腹に、実は攻撃的な性格で毒をもっているのだとか! えー……そうだったんだ。気をつけよう……動物園や水族館でしか見ないけど……。
 そして植物。トリカブト、チョウセンアサガオ、ヒガンバナなどは有名ですが、ドクウツギという小さな赤い実は有害なようには見えませでした。でもこれ、トリカブト、ドクゼリとともに日本に自生する三大有害植物のひとつで、事故が後を絶たないそうです。
 そして食中毒ナンバー1の光キノコ、ツキヨダケも全然有害そうに見えない……なんか怖いですね。
 続いて「プロローグ2 世にも危険な毒図鑑」。「鉛」はローマ帝国を滅ぼしたのかもしれないそうです。上水道設備の配管や酒器や容器に使われていて、鉛中毒が蔓延したのだとか。あのベートーヴェンの聴力を奪ったのも鉛かもしれないそうです。彼の遺髪から通常の100倍近い濃度の鉛が検出されていて、彼は鉛製の器で大量のワインを飲んでいたのだとか。鉛は器に使ってはいけませんね!
 驚いたのが、ここでは「ペニシリン」も毒に分類されていたこと。過剰摂取は危険だそうです。アオカビを多く含むブルーチーズを一度に10キロ食べれば死に至るそうです。まあ、あれを10キロは食べませんが……。
 このエピソードでも分かるように、「1章 毒の基本」には、「毒と薬は不可分な関係にある」ことが書いてありました。「生物に与える作用が好ましいときには「薬」、好ましくないときには「毒」を呼ばれる」そうです。なんと実は「水」や「塩」も毒として作用することがあり、過剰摂取すれば「水中毒」「食塩中毒」を引き起こし、最悪の場合死に至るのだとか。もちろん「カフェイン」もです。
 また英語の「毒」は3つに分類されるそうで、「ヴェノム」はサソリなど毒腺から分泌される毒、「トキシン」はカエル、植物、キノコなど生物の毒、「ポイズン」は毒の総称だそうです。
 続く「2章 毒と体」には、毒や薬は「侵入経路によって効き方やその強さに違いがある」ことが書いてあり、矢毒が塗ってある弓矢でしとめた動物でも、安全に食べられることがあるようです。矢毒は筋肉に直接投与すると毒ですが、口から食べると胃酸に分解されるなどして毒性が現れにくいそうで……まさに「毒かどうか」は、使い方によって違うことの好例ですね!
 そしてここで最も興味津々だったのは、「解毒のメカニズム」。「毒が毒を制する」のだとか!
「解毒剤は、それぞれの毒の性質に基づき、毒の作用を打ち消す働きをする薬だ」とあり、例えば、ムスカリンという毒には、アトロピンという毒が解毒剤になるそうです。
 また応急措置方法は次の通りです。
1)吐かせてはいけない場合(酸やアルカリを無理に吐かせると食道などに穴を開ける、意識がない場合は気道を詰まらせることがある)
2)自然に吐いた場合(吐き出したものは、中毒の原因物質特定に役立つので保存して医師に見せる)
3)毒ガスを吸入した場合(空気がきれいな場所にただちに移動する)
4)毒物と接触した場合(毒物がついた衣服をすぐに脱ぎ、皮膚や粘膜を大量の水で洗う)
5)薬物中毒の場合(救急車を呼び病院に運ぶ。そばに残りの薬剤や注射器があれば病院に持参する)
 ……「多くの場合、まずは毒を体外に排出させることが重要」だそうですが、不明な時は、とにかく一刻も早く「病院に連絡」すべきなようです。
 そして「3章 薬の基本」によると、「薬の正しい役割は、病気やけがを治す手助けをすること」で、ケガや風邪を治すのは結局「自らの自然治癒能力」なのだとか。薬は「自然治癒」を助けるのものだそうです。
「4章 人間を虜にする麻薬」では、たいていの化学物質からは守られているはずの脳に、ヘロインなどの麻薬が入り込んでしまう仕組みが書いてありました。「脂に溶けやすい性質のヘロイン、コカイン、覚せい剤などは、血液脳関門を容易に通り抜けてしまう」そうです。その結果、ドーパミンの制御不能などが起こり、薬物依存になって行動を制御できなくなっていくのだとか……怖いですね。
「5章 自然界の毒」では、「世界の約3,000種のヘビのうち、その4分の1から3分の1が毒ヘビ」だと書いてありました。……そうだったんだ。また無毒な魚でも、サンゴに付着したプランクトンやイソギンチャクがもととなって有毒になることがあるそうです。
 この他にも「ボツリヌス菌(毒)が、美容整形では「しわ取り」に使われることがある」とか、「細菌は抗生物質で殺せるが、ウイルスは殺せないので、ワクチン接種で体内に抗体をつくるのが最善の防護策になる」とか、「中国の古代の皇帝が不老不死の薬と信じていた丹薬の主原料の水銀は、実は毒だった」とか、「悲惨な薬害事件を起こしたサリドマイドは、多発性骨髄腫の薬として再評価されつつある」とか、興味深い話をたくさん読むことができました。
 自然の恐ろしさと人間の英知が隣り合わせの「毒と薬」。その原料、種類、効能、歴史などの基本情報を、フルカラー写真やイラストで分かりやすく解説してくれる本です。「毒」関係の記事が多いので、ちょっと手に取りにくい本ですが……日常に潜む「危険」から自分の身体を防御をするために、とても参考になると思うので、ぜひ読んでみてください。
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