『噴火した!: 火山の現場で考えたこと』2021/10/18
荒牧 重雄 (著)

「火砕流」という言葉の生みの親であり、数々の噴火に立ち会ってきた著者が、自身の体験をとおして火山研究と火山防災について語ってくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 ひとつの都市が消えた――火砕流序説、プレー火山の噴火
第2章 火山研究のきっかけ――伊豆大島1950-51年噴火
第3章 史料と足で読み解いた博士論文――浅間火山天明三年噴火
第4章 実験岩石学や巨大カルデラとの出会い――フルブライト留学生としてアメリカへ
第5章 フランス気質、イギリス気質――火山をめぐるヨーロッパの国民性
第6章 ハワイの楯状火山はなぜ上に凸か――キラウエア火山1963年噴火
第7章 月面は玄武岩か、岩塩か?――アポロ11号の月面着陸
第8章 溶岩と氷河の国アイスランド――極地での野外調査
第9章 フランス人の大論争に巻き込まれる――スフリエール火山1976年噴火
第10章 「火砕流」と言えない?――有珠火山1977年噴火
第11章 山体崩壊と爆風の威力――セントへレンズ火山1980年噴火
第12章 迅速な避難と溶岩冷却作戦――三宅島1983年噴火
第13章 全島避難の島で――伊豆大島1986年噴火
第14章 火砕流の恐怖、目撃者の証言――雲仙普賢岳1991年噴火
第15章 大都市のそばの火山――イタリアの火山と防災
第16章 ハザードマップと対策本部――有珠火山2000年噴火
第17章 火山噴火災害対策について考える
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 第1章は、1902年のプレー火山の噴火(および火砕流)で、サンピエール市という一つの都市が消えてしまったという衝撃的な話で始まります。火砕流と熱雲で都市は壊滅し、死者は二万八千人から三万人(市内で生き残ったのはわずか二人)だったのだとか!
 火砕流とは、「高温の固体粒子とガスの混合物が、異常に小さな内部摩擦を持つ流れとして、重力にしたがって地表を流れる現象」のようです。
 そして第2章以降は、60余年の長きに渡って火山研究してきた荒巻さんの研究生活の思い出が語られていきます。留学生活や、国際会議などの思い出や、ハワイ火山の日米共同調査の実情などが、火山に関する科学的知識(研究)とともに語られていて、ハワイのアラエ火口が噴火した時には、静かで異様な音(フォーンという腹にしみいるような振動の感覚)がしていたとか、できたてのアラエ溶岩湖で、熱い溶岩が固まる前に急いでボーリング調査をしたとか、現場にいた人ならではの臨場感ある描写が続き、とても読み応えがありました。
 1980年のセントへレンズ火山の噴火の時も現地へ飛び、「爆発プラス山体崩壊」という凄まじい状況を、ヘリで調査したときのことが書いてありました。この時は、前年に新設された連邦危機管理局FEMAが運営している地域住民向けの災害対策本部に設置されていた広報板のQAが、とても有用で充実していたようです。
 そして圧巻だったのが、第12章から14章。日本で起こった有名な火山噴火の現場では、何が起こっていたかを具体的に知ることが出来ました。
 例えば三宅島1983年噴火では、溶岩に大量の水を掛ける溶岩冷却作戦が行われたそうです。これは「1973年にアイスランドのヘイマエイ島で発生した噴火で、ゆっくり流下する溶岩流に大量の海水をかけて固化させ、重要な港湾が溶岩によって埋められてしまうのを食い止めたという事件」を参考に実施したようですが、実施規模が小さかったこともあり、荒巻さんは成果については懐疑的だったようです。
 また伊豆大島1986年噴火では、「全島民が脱出」した後にも、荒巻さんたち東大の火山観測斑や、電力を供給するための発電所職員、警察官などが残って全島避難後の後始末などをいろいろ行ったようです。火山噴火の現場では、危険な状況のなかで、いろんな人が活動していたんですね……。
 そして雲仙普賢岳1991年噴火では、自衛隊が大活躍。自衛隊の軍用ハイテク機器も威力を発揮したようで、ジオディメーター(レーザー距離計)や、ドップラーレーダーの能力の優秀さ、そして危険区域内でサンプルを採取してくれたオートバイ隊に感銘を受けたようです。この章には目撃者の証言も多数掲載されていて、火砕流からかろうじて生き延びられた緊迫した状況を、とてもリアルに知ることが出来ました(火砕流、本当に怖い!)。
 そして第15章以降は、火山災害に対する防災計画などが中心になっていきます。
 1990年のイタリアでの火山防災についての行政施策調査では、「人口300万の大ナポリ圏の避難・防災対策」は、「あまりにも大きな災害が予想されるので、現時点へは有効な対策を立てることが不可能」だったようです……。
 また第16章の有珠火山2000年噴火では、てんやわんやの混乱状態に見えた現地対策本部室が、結果的にはかなり能率よくことを進めたことが紹介されていました。
 そして最終章の第17章では、火山噴火災害対策についての意見などが書かれています。
 荒巻さんは、火山噴火の現地対策本部は県庁の庁舎でなく、少なくとも現地の状況が実際に見える場所に置かれるべきではないかと考えているようですが、個人的には、大画面でリアルタイム現地の状況を映すことが出来れば、県庁でもいいのではないかと感じました。ドローンで使い捨ての観測機器を投下することで各種データをリアルタイムに送信、ドローンでリアルタイム映像を多方向から撮影するなどの方法で、より安全に意思決定や対策の即時実行を行えるような設備を整えることを検討すべきではないかと思います。少人数の観測隊なら火山の近くにいてもいいかもしれませんが……(小人数なら素早い非難も可能でしょうし)。
 さて……全体としては、まさに60余年の長きに渡って火山研究してきた荒巻さんの研究生活の総括という感じで、火山噴火(特に火砕流)の科学的知識を得ることが出来るだけでなく、火山噴火の時に現場では何が起こったのかを臨場感を持って知ることが出来て、とても読み応えがありました。火山に興味のある方はもちろん、防災に関わる仕事をしている方も、ぜひ読んでみてください。
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