『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』2019/9/20
丸 幸弘 (著), 尾原和啓 (著)

 先端技術だけでなく枯れた技術も応用しながら、直面する課題に対し、中長期的な視点に立って解決を目指していく……Deep Issue(ディープイシュー)をテクノロジーで解決していこうという取り組みが「ディープテック」。ディープテックについて情熱的に語ってくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 ディープテックとは何か?
第2章 ディープテックの系譜を知ろう
第3章 海外で沸き起こるディープテック旋風
第4章 日本の潜在力はディープテックで開花する
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「第1章 ディープテックとは何か?」によれば、本書でのディープテックの定義は次のようなものだそうです。
1)社会的インパクトが大きい
2)ラボから市場に実装するまでに、根本的な研究開発を要する
3)上市までに時間を要し、相当の資本投入が必要
4)知財だけでなく、情熱、ストーリー性、知識の組み合わせ、チームといった観点から参入障壁が高いもの
5)社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その解決の在り方を変えるもの
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 テクノロジーで問題解決というと「最新技術」が必要なように感じてしまいますが、実は既存技術でも大いに役立つものがたくさんあるそうです。ディープテックの目的は、喫緊の社会問題をテクノロジーで解決することなので、既存でも新規技術でもOKなのだとか。
 そしてディープテックに重要なキーワードには、1)バイプロダクト(副産物)、2)ディセントラライズド(非中央集権型)があり、課題としては、短期間での資金の回収が難しいこと、そしてディープテックの領域としては、次のようなものがあるそうです。
1)テクノロジー:AI/ビッグデータ、バイオ/マテリアル、ロボティクス、エレクトロニクス、センサー/IoTなど
2)分野:アグリ/フード、エコ/エネルギー、ヘルスケア、メディカル、マリン/スペースなど)
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「第3章 海外で沸き起こるディープテック旋風」では、海外の事例が多数紹介されていました。
 例えば2014年にマレーシアで設立されたエアロダインは、電線や通信鉄塔など広域インフラ設備の点検や建築現場のモニタリングに、マルチコプター型ドローンを活用。ドローンで取得したデータ(画像や位置情報)を基にAIが故障部分を自動判定したり、クラウドプラットフォームを通じて3次元データを生成したりして、クライアントに提供しているそうです。
 またイギリスのリバーシンプルの例も、次のように紹介されていました。
「(前略)そもそも一度購入した商品のメンテナンスは、ユーザーにとって面倒なものだ。(中略)
 しかし、イギリスのリバーシンプルのような、車両だけでなくガソリン代やメンテナンス代、代車代を含んだ月額制サブスクリプション型サービスによって、結果的にクルマが長持ちするようになれば、大型廃棄物を減らしたり、故障による有害ガスの排気を減らしたりできる。さらに、メーカー側もユーザーとつながり続けることによって定期的な収入を得られるため、売り切りの呪縛から解放されるのだ。
 これを支えるのはIoTの進化だ。クルマの中にセンサーを搭載し、メンテナンス時期を自動予測し、ユーザーに知らせる。通信機器やセンサーそのものが安価になったために、誰でも導入できるテクノロジーになったのだ。
 AIや通信機器といったテクノロジーの進化やコストの低下によって、これまでなら不可能だった新興国における月額制サービスの実施や、職人頼みだったメンテナンス時のアラート機能が可能になった。加えて、そもそもテクノロジーの運用にかかるコストが減ったことなどで条件が一気にそろい、結果として、ユーザーとメーカー、地球環境にとって「三方よし」の循環を目指せるようになったのだ。」
 この他にも、ドローンで苗植えをしているタイの会社や、汚水を出さない染色技術を開発したオランダのベンチャー企業など、ディープテックをうまく活用している事例を多数知ることが出来ました。
 最終章の「第4章 日本の潜在力はディープテックで開花する」では、日本の事例も紹介されています。ここでは、生産・消費・廃棄という各ステージにおいて資源を循環させることで、持続可能な社会の実現とともに経済成長をも見据えるという「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」に期待を感じました。
 特に、従来は捨てていたものをうまく活用した事例は、「持続可能な社会」にとって望ましい姿ではないかと思います。例えば、ある製鉄会社は、それまで捨てていた50~200度あたりの排熱を「好熱菌」の培養に活かす新しいビジネスを始めたそうで、モノだけでなく、「熱」の活用もあるんだ……ということに新しい視点をもらえました。
「自分が持つ技術(や能力)をもっと幅広く活かせないかと探ることで、新たな価値を社会に提供していく。」……自分たちの古い技術や、廃棄しているものに新しい活用法はないか考える価値がありそうです。
 日本は戦後、製造業を中心に技術を磨き、世界でも有数の経済大国へと成長しました。磨いてきた多くの技術はテクノロジーの進化の過程で、過去のものになりつつありますが、それらの「枯れた技術」は、もしかしたら新興国の課題解決や、新たな市場創造につながるのかもしれません。
 日本の得意な「技術力」を問題解決に活かす「ディープテック」について、語ってくれる本でした。とても参考になるので、ビジネスマンや技術者の方、起業を目指す方など、多くの方に読んで欲しいと思います。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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