『元知能犯担当刑事が教える ウソや隠し事を暴く全技術』2020/5/14
森 透匡 (著)

 詐欺、横領、贈収賄、選挙違反などの事件で2000人以上の取調べ・事情聴取を担当し、犯人や参考人の虚言・隠蔽を見破り、彼らを「完落ち」させて真相を究明してきた元刑事の森さんが、そのテクニックを教えてくれる本です。
 ウソや本心などの隠し事を見破るテクニックだけではなく、証拠の集め方・使い方、容疑性を判断する方法、ヒアリングのやり方など、相手に真実を自白させて攻略する方法を詳しく解説してくれて、とても参考になるのですが……ここで言う「相手」はプロの犯罪者を想定しているようで、ごく普通の人を相手にする場合は、あまり使えない部分もありました(例えば証拠集めには、「ガサ入れ」など一般人には使えない警察の手法が入っています)。それでも、かなりの部分が参考になったので、読んでよかったと思います。
 例えば、「しぐさに現れる10種類のウソのサイン」は次のようなもの。
1)自律神経信号が現れる(顔が赤く(青く)なる、汗をかく、手が震える)
2)まばたきが多くなる
3)反応しない、反応が遅い
4)目をつぶる、隠す
5)顔に手をやる
6)唾をのむ、咳払いする
7)肩が揺れる
8)物体と身体の支点が動く(椅子のひじ掛けと肘、背もたれと背中など)
9)身振り・手振りがなくなる
10)整理整頓のしぐさをする(ネクタイを締め直す、服のしわをのばす、メガネをかけ直すなど)
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 この他、「話し方に現れる19種類のウソのサイン」もあります。
 そして「ウソを見抜く手順」は次のような感じ。
1)質問(発現質問)をする
2)反応が現れる
3)見て聞く
4)複数のウソのサインが現れたら事実を解明するための質問(解明質問)をする
 ……ここで「発現質問」とは、「何について知りたいかを知らせて刺激を与えて反応を見る質問。ウソのサインを発言させるために使うので、相手を刺激する質問が望ましい。」そうで、「解明質問」とは、「証拠を匂わして自供に追い込む質問。基本的には「~を見られた可能性がある?」などの「可能性質問」が一般的」なのだとか。
 本書には、「事例で学ぶヒアリング術」として「課長と部下の社内不倫」の例が書いてありましたが、そこで使われる「発現質問」は、「Nさんと歌舞伎町のラブホテルに行ったよね?」のような感じで、「解明質問」の方は、「ウチの社員はアフターファイブに新宿(歌舞伎町)で飲む人が多いんだよね。あの辺をうろうろしているんだ。ところでNさんと腕を組んであるいているのを誰かに見られた可能性はある?」という感じになるそうです。……なるほど、そう使うのか。
 そして「ウソや隠し事を暴く」ためには、「取り調べに着手する前に内偵捜査をしっかり行い、どれだけ多くの証拠を得ることができるかに尽きる」そうです。きちんとした証拠がなければ、そもそも相手が嘘を言っているかどうかの判断もつきませんよね……。
 また証拠は、示すタイミングも大事なそうです。証拠を早く出してしまうと、相手が「言っていいこと・悪いこと」を整理してしまって、真実を言わなくなる恐れがあるそうで、基本的には証拠を示さずに、相手に疑心暗鬼にさせておいたほうが有利に進むのだとか。うーん……なるほど、参考になるなあ(苦笑)。
 相手にはこちらが「すべて知っている」と思わせる一方で、「最初から焦点を絞り過ぎた聞き方は避けた方がいい」そうです。というのも、「悪事を働く者にはたいてい余罪がある」からで、最初から焦点を絞って質問してしまうと、余罪を見逃してしまうから(!)。……こういうのって、本当に経験豊富な人(刑事)の知恵だと思います……。
 この他、「話す内容より話し方に注意する(ゆっくりと穏やかに話して信頼感を醸成)」、「怒鳴っても敵対心を煽るだけ」などの話し方に関することや、相手が話しやすい時間や場所を選ぶこと(周囲に人がいると話しにくい)など、実際に役に立つ具体的アドバイスがたくさんありました。
 ところで「取調モードへの入り方」として、「今日はなぜ呼ばれたのか、心当たりはありますか?」と切り出して反応を見る(最初の反応に相手の深層心理が現れる)ということも書いてありましたが、これを読んで、ああ刑事ドラマとかで、よく聞くこういうセリフには、そういう役目があったのかと、ようやく腑に落ちました。実を言うと、こんな時、どうして自分(刑事)が呼んだのに、いちいち、相手(犯人)にこんなこと聞くんだろう? 呼んだ理由なんか、すでに分かっているはずなのに……とツッコミを入れたくなっていましたが、悪いことをした人が警察に呼ばれると、いろいろ疑心暗鬼になってビクビクしているから、こういう曖昧な聞き方の方が、相手の反応(深層心理)を引き出せるそうです……すごく勉強になりました(笑)。
 企業不祥事の調査担当者、人事部門や監査部門の担当者、警察関係者、国税調査官など、何か疑惑のあるグレーな相手と接する仕事をしている方にとって、とても役に立つ本です。一般の人にとっても、「嘘つきや信頼できない人」を見極める上で、参考になることがたくさんあると思います。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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