『統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門 (ブルーバックス)』1968/7/24
ダレル・ハフ (著), 高木 秀玄 (翻訳)
統計でウソをつくのがいかに簡単かを、ユーモアまじりに教えてくれる本です。
初版が1968年とすごく古い本ですが、今でもすごく役に立ちます。ここで紹介するために再読したのですが、「数式を使わない統計学入門」という副題の通り、統計学の本なのに数式がほとんどないので、とても読みやすい上に、事例が豊富なので実感として分かりやすいのです。もちろん事例に使われているのは、かなり古いデータではありますが、統計分析と私たちの人間性に内在する問題点を理解する上で、データの古さによる支障はないと思います。
さて、私たちは、テレビやネットで統計的な数字やグラフを見せられると、「なるほど、データによる事実はそうなっているのか」と納得しがちですが、実は、統計的数字やグラフで事実を歪めたり、誤魔化したりすることは意外なほど簡単なのです。
例えば、「第一章 かたよりはサンプルにつき物」では、雑誌「タイム」の論評に記載されていた「1924年度のエール大学の卒業生の年間平均所得が25,111ドル」という数字に疑いを持つことから始まります。どうしてこんなに詳しい数字が分かるのか? 実はこの数字は、全卒業生のうち、住所が分かっていて、しかも回答をよこした者からなるサンプルをもとにしていた……こういう人たちは、全エール大学の卒業生を代表していると言えるのでしょうか? 成功者に偏っているのでは? ……こういう調査で大事なことは、サンプルが全体を正しく代表するものだということですよね。
こんな感じで、「平均でだます法」、「小さい数字はないも同然」、「大山鳴動ネズミ1匹」、「びっくりグラフ」、「 絵グラフの効用」など、統計的数字を使って、読み手を誤解させる事例が次々紹介されていきます。
「第七章 こじつけた数字」の次の事例も、一見すると、「へえ、そうなんだー」と思ってしまいそうですよね。
「米西戦争の間、米海軍の死亡率は1000人につき9人であった。一方、同期間のニューヨーク市における死亡率は1000人につき16人であった。米海軍の徴募官たちは、この数字を使って、海軍に入隊した方が安全だと宣伝していた。」
これに対してハフさんはこう指摘します。「この二つの死亡率は、そもそも比較できるようなものではないのである。というのは、海軍は大部分が太鼓判つきの健康な青年たちから成っているのに、ニューヨーク市民の中には、赤ん坊もいれば、年寄りや病院もいるのであって、どこにいようと当然死亡率は高いのであるから。」……確かに(苦笑)。
そして最終章の「第十章 統計のウソを見破る5つのカギ」では、だまされないための極意をまとめて教えてくれます。
1)誰がそういっているのか?(統計の出所に注意)
2)どういう方法でわかったのか?(調査方法に注意)
3)足りないデータはないか?(隠されている資料に注意)
4)いっていることが違ってやしないか?(問題のすりかえに注意)
5)意味があるかしら?(どこかおかしくないか?)
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「統計的な方法や統計用語は、社会や経済の動向、企業の経営状態、世論調査、国勢調査などの膨大なデータの結果を記録するには欠かせないものである。しかしそういった言葉を正しく理解して使う人と、その言葉の意味がわかる人とがそろっていなければ、結果はナンセンスな言葉の遊びにすぎないのである。」……心に刻みたいと思います。
面白く読める上にすごく参考になる本で、お勧めです☆ 統計で騙されないようにするためだけでなく、「統計で騙してしまう」加害者側にならないよう心掛けるためにも、読んでみて下さい。特に統計を多用する社会科学系や、医学・生理学系の方は、自分の仮説を主張したいがために統計分析に無意識に心理的バイアスがかかっていないか自戒するためにも、ぜひ読んで欲しいと思います。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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