『世界史の発明』2021/10/26
タミム・アンサーリー (著), 花田知恵 (翻訳)

 石器時代からAI社会まで、人類共存のヒントを探し、我々が「創造した」5万年史を再構築している本です。
「序章」には次のように書いてありました(ちょっと長いですが、本書のテーマとなるものなので以下に紹介します)。
「本書は、相互の結びつきを世界史の一貫したテーマのひとつとして捉えながら、そのストーリーの別の面も見ていく。現在、世界はかつてないほど密接に複雑に絡み合っているが、集団としては頑なに分かれたままだ。私たちは同じ惑星に生きているが、多くの異なる世界に暮らしている。私たちが全世界として見ているものは、私たちの目から見た世界に過ぎないし、その「私たち」が何者かによって違ってくる。私たちが世界史として理解しているものは、じつは社会的に構築された、「誰か」を中心にした世界史の物語である。(中略)ほかにも多くのナラティブがある。どれくらい多いかというと、地球上の人間集団が自分たちを「私たち」と考え、それ以外を「彼ら」と見なす、その数だけある。
 結局、最後に行きつくのはナラティブの形である。もちろん歴史は事実を扱うが、歴史においては、それらの事実は基本的にナラティブに利用される。私たちは自分のストーリーを組み立てるとき、私たち自身を創作しているのだ。(中略)
 太古の人々は夜空を見上げ、そこに星々を見るだけでなく、星の集まり、つまり星座を見た。(中略)
 私たち現代人が、星座は現実にはそこに存在しないというのは容易い。確かに、星座は見ている人の想像のなかにはあるが、それを言うなら、私たち人間が見て知っているものはすべて、ある意味、「星座」である――私たちがそう見ているからこそそこにある。私たちは人間の「星座」として存在する。私たちは概念の「星座」に浸かっている。私たちは「星座」の世界に生きている。(中略)
 俯瞰してみると、私たちは文化の領域におけるこれらの小世界の拡大や、小世界の考査や重なりなどの相互作用から生まれた物語を人類の歴史と考えているのかもしれない――心理的混乱、社会的混沌、戦争、文明の発達、宗教の覚醒、知的発見にいたるまで、なんでも生み出す相互作用だ。しかしながら最も重要なのは征服や奴隷化(中略)のただなかでさえ、思想は混じり合い、重なり合い、やがてより包括的な概念の枠組みが新しく生まれることだ。
 道の先がどうなっているかうかがい知るには、これまで歩んできた道を振り返る必要がある。過去にいた場所から今いる場所まで、どうやってたどりついたのか。増え続ける相互の結びつきが世界史の一貫したテーマならば、これまでのところ、ナラティブはどんな形になっているか。」
 この本は、これまである意味で地域的にバラバラに把握されてきた各国(地域)の歴史を、全体として俯瞰し、相互作用する大きな流れをとらえようとしています。
 同じ地域に暮らす人々は「星座」として一つのまとまりに見えますが、実は大きな天空の中で、他の星々とともに散らばっているのです。
 例えば1840年、イギリスと中国の間でアヘン戦争が起こりましたが、それはイギリスが中国から絹や陶磁器、茶を買う一方で、中国はイギリスから何も製品を買わず金塊銀塊だけを受け取り続けたので、金銀不足に困ったイギリスは困り果てたあげくに、解決法を自国が支配しているインドで見つけました。
「インドの気候と土壌はアヘン栽培に最適だった。中国では昔からアヘンを薬として使ってきたが、その頃、アメリカ産のたばこが世界のこの地域にも届き、中国人はたばこにアヘンを混ぜ、快楽を得るための麻薬としてそれを喫煙するようになった。インドに産物があり、中国に有望なマーケットがある。完璧ではないか。」
 その後、中国の役人がヤクの売人を検挙し、彼らが隠していたアヘンを焼却したことがきっかけでアヘン戦争が起こり、他の西洋の強国も利権を求めて中国に殺到するようになります。そして第一次世界大戦へと流れていくようになるのです……。
 このように世界のある国で起こった一つの出来事が、遠い世界の他の出来事と相互に関連しあっているという例を、この本の中では多数読むことが出来ました。
・モンゴル、月氏、フン族など
・中国の政策が、まわりまわってアメリカのボストン茶会事件を生む一因になった。
・コロンブスの成功はその時期だったからこそ起きた(株式会社、銀行などが整いつつあった)
 世界の歴史が大きく動く時は、さまざまな「星座」たちの相互作用によって、その下地がすでに出来上がっている……「機が熟す」とは、まさにこのことなのかもしれないと考えさせられました。
 そして未来への考察「第六部 シンギュラリティには三つの面がある」には、次のようにありました。
「いくらシンギュラリティに向かって加速しても、私たちの歴史が、三本の撚り合わせで作られることに変わりはない――環境(それがどのような環境であろうが)と、道具(人間がつくる道具がどんなものであろうが)と、言語がもたらす人間特有の機能という三つの要素で。そして相互交流により、私たちは概念の世界を実現する――私たちがともに暮らし、一人ひとりが経験する世界を実現し、私たちの想像を超えて広く複雑な現実世界と私たち自身を仲介する世界を実現するのだ。」
 さらに最後の章「31章 ビッグ・ピクチャー」には、アンサーリーさんの願いが感じられる次の記述が。
「(前略)現在の私たちは、重なり合わないソーシャル・バブルに暮らし、何かにつけて反目し合い、種としてひとつの目標に向かって進むこともできず、互いに孤立しているかもしれないが、未来もそうなるわけではない。(中略)
 文化の境を超えてつながるためには、背景を真剣に受け止める必要がある。それが、自分たちとまったく違う人々と共につくる、目的を持った世界を垣間見るための唯一の方法だ。」
 他の「星座」の人々とともに、よりよい社会をつくっていくために、私たちはもっと歴史を学び、互いの背景を知る必要があるのでしょう。
 石器時代から始まり、シルクロード、十字軍で世界がつながっていき、さらに大航海時代にいっきに拡大して、現在へと流れる……これら全体が相互に影響しあっていた世界の流れをじっくり復習することが出来て、とても勉強になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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