『ユニバーサル・ミュージアム: さわる!“触”の大博覧会』2021/9/17
国立民族学博物館 (編集), 広瀬 浩二郎 (編集)

 さわって楽しむアート作品が大集合! さまざまな素材と手法を用いて、“触”の可能性を探る、「ユニバーサル・ミュージアム」大博覧会(国立民族学博物館、2021年9月2日~11月30日)の公式図録。カバーデザインには「点字」がつけられていて、実際にそれを触ることが出来るという凝った表紙になっています。
 ……実を言うと大博覧会の公式図録だということを知らずに本書を読み始めたのですが、普通の展覧会の公式図録と違って、大博覧会では何が展示されていたのかが少ししか分からないような(笑)……いろんな内容がぎっしりの「読める図録」でした。
 さて、この大博覧会を行った国立民族学博物館は、「みんぱくは、その博物館のあり方として、立場の異なるさまざまな人びとの出会いと相互の交流、啓発の場、「フォーラムとしてのミュージアム」の実現という目標を掲げ、誰にでも優しいミュージアムというコンセプトのもと、ユニバーサル・デザイン、あるいはインクルーシヴ・デザインの導入や、多言語対応の拡大を図ってきました。」だそうです。「誰もが楽しめ、安心して利用できるミュージアム」が、ユニバーサル・ミュージアムなのでしょう。
「ユニバーサル・ミュージアム」の6原則は、次の通りだそうです。
1)誰がさわるのか(弱者支援の福祉的発想を超えた新たな共生の可能性を提示する)
2)何をさわるのか(レプリカなど、さわれないものをさわれるものに変換するための創意工夫する)
3)いつさわるのか(万人の日常生活に刺激を与える)
4)どこでさわるのか(博物館以外へも拡大し、モノ・者との対話を楽しむ双方向性を促す)
5)なぜさわるのか(さわると、よりよく理解できる)
6)どうさわるのか(さわるマナーを育む)
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 博物館というと、「展示品には触らないでください」と注意書きされていることが多いので、展示品に触れることはめったにありませんが、この展示会は「触覚や、視覚以外のさまざまな感覚の復権をめざし、博物館のあり方を考えなおしてみよう」がテーマの特別展なので、「触れる展示」がとても多かったようです。
 例えば、国宝・興福寺仏頭のレプリカを触るプロモーション・ビデオや、片桐博詞さんの彫刻の実物に触れる展示など、宗教や芸術の優れた作品(レプリカ)に触れる体験の展示があったようです。私の好きな「ポップアップ絵本」にさわるという展示もあったようで、これに使われている絵本は、不用意に触っても指が傷つきにくい画用紙のような素材が使われている抽象的な作品だったので、視覚障害者の方たちも、とても楽しめたのではないでしょうか。 最近は3Dプリンタなど、レプリカを比較的簡単に作れる機器もあるので、今後は、もっと「さわれる作品(レプリカ)」が充実して欲しいと感じました。
 そして素晴らしい試みだと思ったのは、「論考 彫刻にさわるとは」で紹介されていた「活用と保存を兼ねるプログラム」。「彫刻を触る☆体験ツアー」は、屋外彫刻を、1)洗う、2)ワックスを塗る、3)磨いてツヤを出すという順番で進めるもので、彫刻に堂々と触れるだけでなく、触れることが彫刻のメンテナンスにもなるという一石二鳥のプログラムです。まさに活用と保存を兼ねる最強のプログラムですね!
 また「触図という二次創作物による作品鑑賞の新たなかたち」という記事もとても興味深かったです。これはブリューゲルの「バベルの塔」やムンクの「叫び」などの有名な名画を原画に、少し簡略化あるいはデフォルメしたレリーフの二次創作を作って「さわる絵画」とする試みで、大学生たちが作った「触図」の実例写真が多数掲載されていたのですが、視覚障害者の方たちが「名画」を楽しむための、とてもいい支援になるのではないかと感じました。ただし「触図」は、それだけでは機能しないそうです。次のように書いてありました。
「(前略)触図はそれ自体では機能せず、作って公開すれば終わりではない。さわりながら今全体のどの部分に触れているのかといった、時宜を得た言葉によるサポートが必要であり、複雑な形状は必要に応じてそぎ落す・補足する等、視覚情報を触察に適した情報に翻訳するという作業も求められる。美術作品の場合、独特の作りこみをしばしば要する。」
 ……なるほど。確かにそうですね……。
 そして「第7章 ユニバーサル・ミュージアムの未来」にあった、次の記述には、はっとさせられました。
「さわる、さわられるは信頼関係である。例えば、ガイドヘルプのとき、視覚障害の方はガイドを信頼して腕に触れ、その進路、身体を委ねる。握手やハグもやはり信頼である。また、博物館で展示品をさわらせるという場合には、さわる人が展示物を大切に扱ってくれると信頼してさわらせている。さわれるは信頼できることが前提なのである。広げて考えれば、「さわれるまち」とか「さわれる社会」というのは、「信頼できる社会」ということになるのではないか。コロナ禍で接触を避けることが求められたなかで、不安を感じることなく近づき会話し飲食を共にし触れあえることへの渇望にあらためて気づかされた。我々は、さわらないですむ社会をつくるのではなく、安心してさわれる社会をつくることに尽力すべきではないか。「ユニバーサル・ミュージアム」は、信頼できる社会づくりにつながっているのである。」
 視覚以外の感覚の復権をテーマにした「ユニバーサル・ミュージアム」の本でした。博物館の新しい姿を考えさせてくれるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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