『図説 世界史を変えた数学:発見とブレイクスルーの歴史』2019/5/25
ロバート・スネデン (著), 上原 ゆうこ (翻訳)

 古代エジプトにおける幾何学理論のはじまり、「ゼロ」の発明、無限の問題、整数論などの数学の根幹をなす理論から、私たちの暮らしに関わりの深いテーマまで、数学の画期的な理論や大発見を紹介してくれる「数学の歴史の本」で、内容は次の通りです。
第1章 数のことを考えよう
第2章 数体系
第3章 幾何学の始まり
第4章 音楽の数学
第5章 永遠に続く─円周率への道
第6章 ゼロ─たいしたものだった無
第7章 代数学─未知のものを求める
第8章 遠近法で描く
第9章 確率─偶然とは何か?
第10章 対数─計算を簡単にする
第11章 幾何学が座標を手に入れる
第12章 微積分法─科学革命
第13章 数を描く─データの視覚化
第14章 整数論
第15章 無限の問題
第16章 位相幾何学─変形
第17章 コンピュータ科学の誕生
第18章 ゲーム理論
第19章 カオス理論
第20章 終わりに─数学は実在を記述できるか?
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 数学というと、どうしても苦手意識が先に立ってしまいますが(汗)、この本は「数学」というより、数学が出来てきた経緯を紹介してくれる「歴史」の本なので、むしろ数学が苦手という文系の方にお勧めしたいと思います。カラーの図表やイラストが多用されていて、数学が苦手な人にも読みやすいよう配慮されています。
 数式はほとんど出てきませんが、確率や幾何学、微積分法やゲーム理論、カオス理論などの数学がどのような経緯で出てきたのかが分かるので、数学用語に慣れることが出来て、もしかしたら数学への苦手意識が和らぐ……かも……。
 さて、「第2章 数体系」には、数学のごく初期のことが書いてありました。
「おそらく、最初に数と計数の体系を考え出したのは、メソポタミア文明の中でもごく初期のシュメール人で、紀元前4000年頃のことである。その基本単位は60で、この体系は現在でも、たとえば1分を60秒、1時間を60分、円を360°に分けるところに残っている。エジプトなど、それよりあとの文明は、今日の人々にもっと馴染みのある10進法を使うことになる。」
 ……時間が60進法になっているのは、メソポタミア文明にルーツがあったんですね!
 また「第11章 幾何学が座標を手に入れる」では、今ではすっかり当たり前のものになっている「座標」が、あのデカルトさん(またはフェルマーさん)の提案で出来たものだと知って驚きました。
「デカルトは、2次元における任意の点の位置は、その点の水平方向の位置を与える数と垂直方向の位置を与える数のふたつで記述できるという考えを提案し、この方式は「デカルト座標」と呼ばれるようになった。」
 さらに「第4章 音楽の数学」や「第8章 遠近法で描く」では、音楽や美術(建築)でも、数学が活かされていることが示されます。例えば、「第4章 音楽の数学」には、次のような興味深いコラムが書いてありました。
「20世紀初頭には、基準となるラの音の振動数は439Hzだった。1939年5月にロンドンで開催された国際会議で、440Hzという現在の基準にすることで合意された。なぜそうなったのだろう。その答えは、ラジオ放送の開始と関係があるのかもしれない。ラジオは、しだいに増えるリスナーにコンサートの演奏を届けた。BBCは、100万Hzの振動数で振動する圧電性結晶で制御される発信器を使って調律音を発生させていた。これを何度も割ったり掛けたりして、必要とされる440Hzの振動数を出したのだが、素数である439をこの方法で発生させることはできなかったのだ。」
 そうか素数だと扱いにくかったんですね……なるほど。
 こんな感じで、数学の「発見とブレイクスルーの歴史」を教えてくれる「数学の歴史」の本でした。数式はほとんど出てこないので、これを読んでも残念ながら数学の成績がすぐに上がるわけではなさそうに感じましたが(汗)、「ゼロ」、「確率」、「無限大」、「ゲーム理論」、「カオス理論」などの数学がどういうもので、なぜ登場してきたのかなどが分かるので、数学への苦手意識を改善できるかもしれません。数学が好きな方はもちろん、苦手な数学をなんとか克服したいと思っている方も、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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