『続 直観でわかる数学』2005/10/20
畑村 洋太郎 (著)

 畑村さんが、算数の「考える道筋」の見本を示してくれる本です。前作『直観でわかる数学』の続編ですが、最初の『直観でわかる数学』が、主に中学・高校の数学を対象としていたのに対して、続編の方は、小学校の算数を対象としているので、「続編」というよりは、「0(ゼロ)」という感じがしました。
 本の内容は、「1 どんな数にも見えない個性がある――数の話」から始まります。ここではなんと、「気色が良い数、気色が悪い数がある」などという非科学的(?)な感想から始まります。
 一般的に、4や9などの数は、音が「死」や「苦」に似ているので嫌われがちですが、個人的には、この二つの数字は嫌いではありません。4はすっきりと割り切れやすい上に正方形を連想させるので、むしろ好きな数字ですし、9も音符記号に似ていて、音楽好きとしては嫌いになれない数字。1、3、7とか「みんなが好きな数字」ももちろん好きで、8は無限大みたいで素敵、0に至っては「発想の転換」が必要な最も洗練されている素晴らしい数字……要するに、嫌いな数字など一つもないので、この「気色が良い数、気色が悪い数」という発想に、そもそも疑問を感じてしまいました(汗)。それでも、畑村さんが、数に関する考察をいろいろしているうちに、素数とか素因数分解に持ち込んでいく手法には少し感心させられましたが……。
 うーん、「子どもの頃は算数が苦手だった」私にとって、この話(章)は果たして役に立っただろうか? と疑問に感じながら、次の「2 エビフライを尻っぽから食べるか? ――足し算・引き算・掛け算」に進むと……授業では当たり前のように「お尻(下の位)」から計算すると教えられている足し算・引き算・掛け算は、「頭から」計算した方が分かりやすいのではないか、ということが提示されていました。これについても、いやいや、やっぱり「お尻(下の位)」から計算した方が、むしろ書き間違いが減って、計算ミスを防げるのでは? と感じてしまいました。特に「掛け算」は、「頭から」計算すると絶対にミスをしそう。
 ただし、「「頭から」式でやれば、どんなに大きい数が来てもヘッチャラで、桁違いのまちがいは絶対しないのである。」という意見については、正しいとも感じました。なにしろ最近、数学パズルの計算でミスを連発したところを調べてみたら……全部、単純な計算ミスだったから(汗)。パズル本の余白の小さいスペースで計算すると、自分のメモした数字がどの位の数字だったかを間違って「桁違い」の間違いをしでかしてしまうんですよね……こういうのを防ぐためには、「お尻」から計算をした上で、検算として「一番上の位だけ(頭から)計算してみる」を追加すべきだなーと感じました。
 よく考えてみると、私が子どもの頃、算数が苦手だったと思っていたのも、こういう計算ミスを連発していたからのような気がします。つまらない計算ミスのせいで算数が苦手な子を作らないように、小学校の算数ノートは、途中経過の数字メモの位の読み違いを防ぐために「方眼紙」を使うべきだと思いますし、テストの時にも、問題+解答用紙の他に、計算メモ用の方眼紙を配ったらどうかなーと思いました。
 そして次の「3 個数を数えてガバッと取り出す ――割り算」に進むと……割り算は、足し算などと違って、「頭から」計算する方法を最初から教えられているのですが、畑村さんは、やり方が中途半端だと指摘します。そして事例を使って、「割り算対象の数字の頭の数字が割れない場合は、そこを空白にするのではなく「0」を書いてしまおう」と説明してくれるのですが、これは確かにそうすべきだなーと思いました。きちんと「0」も書いてしまったた方が、絶対に計算ミスも減ると思います。
 こんな感じで、さらに「正の数・負の数」や「平方根」など、数学の基礎の基礎的なことを、深ーく考察していきます。この考察は分かるような、分からないような感じでしたが……「算数が得意な子って、いろんなことを考えぬいて育ったんだなー」ということだけは分かりました(汗)。
 実はこの本のタイトル『直観でわかる数学』が、直感ではなく「直観」であることには意味があるそうです。
「物事を徹底的によく考え、考えぬいた人だけが「直観」を体得できる。私の『直観でわかる数学』は、そのように考えに考えぬいて、頭の中に「考える道筋」を作りながら数学の概念の本質を掘り起し、理解していく本なのである。直観の「観」という字は「わかる」という意味である。「感じる」ではない。だから、「直感」ではなくて「直観」なのである。」
 ……なるほど、そうだったんですか。
 さて、この本の冒頭の「長いまえがき」では、数学が得意な両親が、自分の娘が「数学がダメ」なのをなんとかしようとして頑張るのですが、それでも娘の考え方(理解の仕方)が理解できず四苦八苦する、という話が紹介されるのですが、子どもの頃「算数が苦手」だった私にも、残念ながら、娘さんの考え方がよく分かりませんでした(汗)。「算数が苦手」にも色んなタイプがあるんだなーと思います。そういう「お手上げ」な時には、「数」や「計算方法」について深く考えてくれる、この本が役に立つのかもしれません。でも……たぶん算数がそれほど苦手でなかった方にとっては、かえって分かりにくい本だと感じるのではないかと思いました。……分かりにくい感想になってしまって申し訳ありません(汗)。こんな風に、いろんなことを考えさせられたことが、この本を読んで最も有意義だったことかもしれません(笑)。
 えーと……最後に、子どもの頃「算数が苦手」だったけど、現在ではそれほど苦手ではなくなっている私からのアドバイスを一つ。それは「算数は「言語」だと思って勉強すればいい」ということです。実は国語がすごく得意だった私は、なんとなく「国語が得意な人は、算数は苦手で当然」だという妙な勘違いをしていたのですが、ある時ふと、算数は「数字と会話するための数字界の言語なのでは?」と思いつき、数字や九九は単語や慣用句、公式は文法だと思って記憶して、それを使って話す言語だと考えてみたのです。すると……数学は、これ以上、美しい言語はないと思えるくらい「面倒な例外のない」シンプルな文法を持つ言語だったのでした。理由は分からないけど、なんだか「算数に苦手意識」が強い方は、このように考えてみるといいかもしれません。
 また、この『続 直観でわかる数学』を読むと、数学が大得意のはずの東大理系の人も、意外に同じように苦労してきたんだなーということが分かって、苦手意識が軽減されるかもしれません。ぜひ読んでみてください。
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