『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』2021/7/15
山舩 晃太郎 (著)

 今日は地中海、明日はドブ川……水の底で沈没船を探す水中考古学者の、激アツの発掘デイズを紹介してくれる本です。
 発掘作業のリアルな現実もエキサイティングですが、山舩さんの人生もまさに「体当たり」な感じの元気さに溢れていて圧倒されました。なんと「英語力ゼロ」なのに単身渡米、ハンバーガーすら注文できず心が折れた青年が、10年かけて憧れの水中考古学者へとぐんぐん成長していくのです。「はじめに」には、次のように書いてありました。
「「水中考古学」とは、その名の通り、水に沈んだ遺跡の調査発掘を行う学術研究である。日本ではまだ聞きなれない学問ではあるが、60年ほど前に誕生し、今やヨーロッパや北米をはじめ、世界中で数多くの水中調査や水中発掘が行われている。
 私は2009年からアメリカの大学院で船舶考古学を学び、現在は世界中で水中調査・研究を行っている。
 アメリカに留学した当初、私は英語が全くできなかった。マクドナルドでハンバーガーを注文することもできなかったし、半年間勉強しても、TOEFLの読解問題は1点しか取れなかった。だが、「こんなに面白い学問は他にはない!」とほれ込んだ水中考古学の勉強をしたい、その一心で英語を学び、アメリカの大学院に入学し、指導教官のもとに押しかけ、博士号を取得した。
 そして、大学院卒業後、世界中の海に潜り、船の発掘と研究をしている。」
 野球少年だった山舩さんは、右肘の故障で野球選手になることを断念、大学の卒論のテーマ探し中に出会った『海底の1万2000年』という水中考古学の本に魅せられ、水中考古学を学べるテキサスA&M大学へ留学したのです。
 でも……英語ができないまま留学しているので……大変な苦労があったようです。1回目の授業内容がまるで分からず、スクリーンの情報を必死にメモして、授業後に図書館でそれと同じ写真や図を探して、そのページの説明文を、電子辞書を使いながら少しずつ読み、2回目からは教授に許可を取って授業内容を録音し、毎回15~20時間かけてノートにまとめる、という生活を続けたのだとか。
 この後も、とにかく「やりたいこと」のために体当たりで頑張る姿に、圧倒されるとともに、読んでいるこちらまで励まされる感じでした(笑)。
 もちろん水中考古学者になってからの日常も、すごく読み応えがあります。
 指先さえ見えない視界不良のドブ川でレア古代船を掘り出し、カリブ海で正体不明の海賊船を追い、エーゲ海で命を危険にさらす……水中考古学は体力勝負なのかも。
 意外なことに、「水中」は考古学的遺物にとっては、「タイムカプセル」のような、とても良い環境のようです。船体に砂が覆いかぶさると海底に埋まる無酸素状態になり、有機物でも何千年も綺麗なまま保存される環境が出来上がるのだとか。
 海中では錆びつきそうに思っていた金属製の水中遺跡も、陸上のものより腐食が遅いようで、水中戦争遺跡などは海中に露出した状態でも数十年は形状が保たれるそうです。
 山舩さんは世界中のあちこちで水中遺跡の発掘に携わっているので、この本で、古代の船から中世、さらには近代の水中戦争遺跡など、さまざまな種類の沈没船の発掘・研究の具体的な方法を知ることが出来ました。
 特に「フォトグラメトリ」という「画像データを光学スキャンデータとして応用し、デジタル3Dモデルを構築する技術」を得意としているようで、この技術は、今後、さまざまなシーンで活躍しそうだと感じました。「フォトグラメトリを用いたモニタリングの素晴らしい点は「過去に遡ることが可能」である点だ。」そうです。
 しかも「フォトグラメトリ」は、水中遺物の詳細な3Dモデルの構築に役立つだけでなく、水中での保存にも有用なようです。
「(前略)水中遺跡の精密なデジタル3Dモデルをコンスタントに作成して定期的に観測すれば、水中戦争遺跡に起こっている変化を視覚化し、遺跡のどの部分にダメージが多いのかを数値化することができる。劣化の激しい部分が分かれば、そこを重点的に補強し、同じ予算でできるだけ多くの水中戦争遺跡の補強作業が可能になる。」
 今後も、この技術を駆使して世界中の水中考古学研究を進めていって欲しいと思います。
 沈没船の謎を追う水中考古学者のリアルな日常を、ユーモアをまじえて紹介してくれる本でした。考古学に興味のある方はもちろん、外国留学を考えている方(留学に不安を感じている方)もぜひ読んでみてください。きっと活力をもらえると思います。
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