『教養として知っておきたい 博物館の世界: 学び直しに活かせる新しい鑑賞術と厳選20館』2021/7/13
栗原 祐司 (著)

 京都国立博物館の副館長でもあり、日本のミュージアムを6300館も訪ね歩いているマニアでもある栗原さんが、教養としての博物館鑑賞術を教えてくれる本。運営と展示の2方向から博物館の裏側、鑑賞方法を解説し、お勧めの博物館20も紹介してくれます。
 博物館や美術館は好きなので、行ったことのある博物館もありましたが、まだ訪れたことのない館もあって興味津々でした。特に、冒頭のカラーページで外観写真を見ることが出来る博物館は、こんな素敵な博物館が……という感じで行ってみたくなりました。
 ちなみに「第1章 博物館についての基礎知識」によると、「「博物館」はそのコレクションや専門性によって、資料館、史料館、郷土館、歴史館、考古館、記念館、文化館、美術館、科学館、動物園、水族館、植物園、動植物館園、昆虫館、プラネタリウム、文学館、展示館などなど、様々な呼び方がなされている。法的には特に規制はなく、設置者の判断ということになっている。」とあり、美術館や動物園、プラネタリウムも博物館の一種だそうです……そうだったんだ……。
 そして本書の内容の方は、博物館の展示物に関する紹介というよりは、「博物館の運営」に関する紹介が多かったような気がします。「第2章 博物館の「運営」を知る」では、次のように、博物館が税金対策に使われることも多いことを知りました。
「(前略)新公益法人制度となった2013年以降は、一般社団法人・財団法人で国または都道府県から公益認定を受けたものが公益社団・財団法人となり、様々な税制優遇措置を受けられることになっている。
 例えば、私立博物館の土地や建物は基本的に固定資産税の課税対象だ。だが、公益社団法人、公益財団法人、もしくは宗教法人が設置する登録博物館は非課税となっており、特に土地代が高く、膨大な固定資産税が発生する都市部の博物館にとっては、大きなメリットとなっている。
 また、日本の相続税は税率が高いため、何も対策をしなければ、3代で財産がなくなるといわれるほど批判が多い。現存する最古の公家住宅の「冷泉家住宅」(京都府京都市)は、「公益財団法人冷泉家時雨亭文庫」として運営を行っているが、法人化以前は相続税や固定資産税の取り立てが厳しく、税務署の職員が土足で家に上がりこみ「税金が払えないなら、家を売れ」といわれるほどだったそうだ。」
 ……なるほど。たとえ税金対策であっても、貴重な文化財が博物館の形で残るなら、切り売りされて散逸してしまうより、ずっと良いと思います。
 また、日本や東洋の美術品の多くは、紙や絹など素材が脆弱で劣化しやすいので、展示期間に制限が設けられているそうです。
「(前略)国宝・重要文化財に指定されているものは、文化庁が定める基準があり、年間の展示公開期間を守らなければならないことになっている。歴史ある絵巻物は約6週間展示すると、その後、1年半は展示することができない。」
 ……なるほど。それで国宝とかは常設展示されずに、「特別展」で展示されるんですね。
 また、ある意味で国宝より貴重な「タイプ標本」というものがあることを、初めて知りました。
「博物館には歴史系、美術館などの他、自然史系博物館がある。自然史関連の資料は、一部の天然記念物を除けば、文化財保護法の対象外であり、その代わり、他の博物館では絶対にみることのない表記を見ることがある。それが「タイプ標本」(「基準標本」または「模式標本」)だ。
 例えば、生物の新種を発表する時、その基準となる標本を指定することになっている。この標本のことを「タイプ標本」と呼ぶ。新種発表の基準であるタイプ標本は博物館や研究機関で大切に保管されている。」
 ……確かに、それはすごく貴重な唯一無二の「標本」ですね!
 そして最後には、「第6章 厳選! ニッポンの行くべき博物館20」の紹介もありました。
 素敵な博物館ばかりですが、個人的に一番気になったのは、「南阿蘇ルナ天文台」。星空体験ツアーがあって、宿泊は、併設のオーベルジュ「森のアトリエ」だそうです。この本の冒頭で写真でも紹介されていますが、外観もすごくお洒落で素敵です。「夜空を眺めながらお酒を飲んだり、ボーッと過ごしたり、自由に思いっきり自分なりの星空の楽しみ方ができる。」と書いてありましたが……南阿蘇の満天の星空、すごく綺麗でしょうね。行ってみたいです。ちょっと遠いですが……。
 運営方法を含めて、博物館の世界を紹介してくれる本でした。博物館が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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