『マンガでわかる 細胞のはたらき』2018/12/11
坂井 建雄 (監修), 時 千広 (著), サイドランチ (著)

 人体を構成するさまざまな細胞について、「内臓の細胞」、「筋肉や骨、血液の細胞」、「感覚器の細胞」、「脳や神経、生殖の細胞」に分類して、マンガと文章+図解で分かりやすく教えてくれる本です。ES細胞、iPS細胞、オートファジーなど、細胞にまつわる最新の話題に関する解説もあり、「細胞」のことを総合的に学べます。
 各章の冒頭にはマンガがあって、細胞学者だった亡き母と夢の中で再会した少年が、自分の体内の細胞のことを学んでいくというストーリーになっています。その後には文章とイラストによる解説があり、その章のテーマとなる細胞に関する知識が詳しく紹介されていくという構成になっています。マンガで細胞を学べる本というと、ベストセラーの大人気マンガ『はたらく細胞』がありますが、この本は面白さというよりは、「学習」に重点がある感じで、体内のすべての細胞について、この本一冊で総合的に学べます。
 細胞について詳しい構造や機能を学ぶことができるだけでなく、「胃液で胃が溶けないのは、胃壁の表面に粘液細胞があって胃液を中和する粘液を分泌しているから」とか、「電気信号で情報を伝達している神経細胞が、ケーブル直結ではなく、シナプスの隙間に放出する化学物質(神経伝達物質)で伝達しているのは、キャンセルしたいときに制御しやすいから(ケーブルで直結させると、キャンセルしたくても、どこまでも流れていってしまう)」という感じの「みんなが抱いている疑問」への回答も知ることが出来ました。
 個人的に最も興味津々だったのは、「6 最新の細胞研究」。細胞同士が、脳を介することなくホルモン、サイトカイン、情報伝達物質などを使って直接情報交換していることや、人工的な幹細胞(ES細胞、iPS細胞)の他、テロメアやオートファジーなどの最新の細胞研究についても知ることが出来ました。
 例えばテロメアについて、一部を紹介すると、次のような感じ。
「テロメアとは、細胞核のなかにある染色体の末端部分の粒子の配列。染色体の末端を保護するためのものと考えられていますが、細胞分裂を繰り返す度に、テロメアは短くなっていくのです。人体の出生直後のテロメアは、1万回以上連続して粒子が配列しているようですが、1度の細胞分裂で20~200ずつ減り、およそ5000を下回ると細胞分裂しなくなります。また、細胞分裂だけでなく、ストレスや睡眠不足でも短くなるので、老年になるほどテロメアは短くなり、さらには、がんなどの病気にも関わっているといわれています。(中略)
 実は短くなったテロメアを再び伸ばす酵素(テロメラーゼ)も発見されています。(中略)
 現在、テロメラーゼを活性化させる研究が進んでおり、将来的には不老になれるかもしれません。」
 また、オートファジー(細胞が自分を食べて、エネルギーをつくりつつ、細胞内を掃除する)については、次のような感じ。
「研究が進んでいるオートファジーですが、神経系の病気と関係があることがわかっています。分裂をしない神経細胞は、寿命が長い分不要物がたまりやすく、例えばアルツハイマー病は、不要物を処理するオートファジーがはたらかずに起こる病気といわれています。オートファジーを活性化できれば、神経系の病気を抑えられる可能性があるのです。」
 ……ES細胞、iPS細胞はもちろんですが、テロメアやオートファジーの研究にも期待が持てそうですね☆
「細胞」についてマンガと文章(+イラスト)で総合的に学べる本でした。医学や生物学が好きな方にはもちろん、『はたらく細胞』が好きな方にもお勧めします。『はたらく細胞』の方が面白いかもしれませんが、読むときに、この本が手元にあると、「マクロファージって何だっけ?」、「血管の中にはどんな細胞がいたんだっけ?」とちょっと気になった時に、すぐにそのページを開いて確認することが出来るので、いっそう勉強になると思うからです。勉強だって、楽しく効率的にやりたいですよね☆ 大人も子供も楽しく学べる本だと思うので、ぜひお子さん(小学校高学年以上)と一緒に読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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