『皮膚はすごい: 生き物たちの驚くべき進化 (岩波科学ライブラリー)』2019/6/6
傳田 光洋 (著)

 ポロポロとはがれ落ちるような柔な皮膚もあれば、脱皮でもしない限り脱げない頑丈な皮膚もある……生き物たちの皮膚は一見不合理のようでも、それぞれが進化の産物であり、理由があることを語ってくれる本です。
 皮膚の主な役割が防御機能と熱交換にあること、皮膚の構造の他、生きものの皮膚の進化、動物だけでなく植物にも皮膚があることなど、皮膚について、さまざまな観点から解説してくれます。
 すごく面白かったのが、「4 植物だって「皮膚」でできている」の中の地衣類の話。ちょっと長いですが、その一部を以下に紹介させていただきます。
「(前略)地衣類の表面にあって、内側の部分を守る層、人間の皮膚だと表皮ですが、それは実に驚異的な強さを持っています。二〇一〇年、欧州宇宙研究機構で、地衣類を宇宙空間に一〇日間放置するという実験の結果が報告されました。
 地球の生命の起源が、宇宙から飛来した、という仮説があります。この実験の理由の一つは、その仮説を確かめるためです。つまり、宇宙空間で生きていられる生物は存在するか、ということを確認するためでした。地衣類は硬くて強い構造を持っていて、乾燥にも強い。だから、その実験に選ばれました。
 宇宙空間に置かれる地衣類は、真空状態で、太陽からの強い電磁波、放射線にさらされることになります。一〇日経って回収した地衣類は、五〇~八〇%も生き延びていました。この驚異的な地衣類の耐久性は、表面の色素層によるものだと考えられています。色素層を果たした地衣類、色素を除去した地衣類は全滅していたからです。
 さらに、地衣類を長時間、火星と同じ条件に放置する実験も行われています。(中略)
 実験後、地衣類はちゃんと生きていて、しかも増殖する能力に変化がなく、構造も半分、維持されていました。
 この研究者たちは、将来、火星を緑化するとき、地衣類が使えないかと考えています。いわゆる惑星地球化(テラフォーミング)です。丈夫な温室を作って地衣類を繁殖させ、そこで水さえ供給すれば、地衣類は光合成して酸素をもたらすでしょう。」
 ……火星の惑星地球化(テラフォーミング)に地衣類が役に立つかもしれない! それは素晴らしいですね。
 その他にも、「ホヤは、植物しか作らないと考えられてきたセルロースを、表皮で作るようになった」とか、「コウイカやカメレオンの皮膚色の変化の仕組み」とか、「細胞レベルでは脳の細胞とケラチノサイト(表皮)との間に大きな違いはない」とか興味深い話をたくさん読むことが出来ました。
 動物から植物まで、さまざまな生き物の皮膚の不思議について、エッセイのような読みやすさで語ってくれている本です。科学(生物学)が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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