『まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか (SB新書)』2021/3/6
木下斉 (著)

 地元をどうにかしたくて、地域の人を巻き込んだ事業に取り組んだ人たちが大勢いるのに、結果が出ないのはなぜなのか。そこには、地域の多くの人たちが囚われている「まちづくり幻想」がある……失敗する地域再生事業の多くには、関係者の思考の土台そのものに間違った思い込みがあることを、ズバリ指摘してくれる本です。
「はじめに」にあった次の文章に、ハッとさせられました。
「地域プロジェクトにおいてよくある質問は、「何をやったらいいでしょうか」というものです。この質問は、どこかに「答え」が存在し、優れた人だけがそれを知っていて、だから間違わずに成功できるのだ、という「思考の土台」がある人の発想です。この質問そのものが間違いであり、失敗の始まりなのです。これこそが、幻想に囚われた人の思考の土台です。
 他の地域の成功事例などわかりやすい答えを求め、自分は何一つ失敗もせず、他人のカネを使ってやれることはないか、と考えるような「思考の土台」がある限りは、失敗が続きます。成功する人たちはそもそもそんな考えを持っていません。成功の理由は自分たちで考え、自分たちのお金の範囲で失敗を繰り返し、改善を続けているからです。結果だけを真似ても意味がないことを、成功する人たちは理解しているのです。」
 ……うーん、確かに……。
 この本は、地域プロジェクトがよく直面する次のような問題を指摘してくれます。
・「あの成功事例みたいなものを地元にほしい」「予算を取ることこそ仕事だ」と信じ切って進めてしまう自治体の意思決定者。
・成功者を妬み、足を引っ張り合う集団心理に侵された、内向き思考のネクラな地元の人たち。
・あくまで仕事だと割り切って、頼まれたことしかせず、自らリスクを負わない外の人。
 ……うーん確かに、こういう問題を抱えている地域って多いかも……。
 そしてこの本は、問題の指摘をするだけでなく、そんな「幻想」を振り払うために行うべき「12のアクション」も提案してくれています。そのうちの最初の5つを紹介すると、次のような感じです(もちろん本書では、もっと詳しく説明されています)。
1)外注よりも職員育成
2)地域に向けても教育投資が必要
3)役所ももらうだけでなく、稼ぐ仕掛けと新たな目的を作る
4)役所の外に出て、自分の顔を持とう
5)役所内の「仕事」に外の力を使おう
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 また、さまざまな成功事例の紹介もあり、それも参考になると思います。
 例えばスペインのバスク自治州は持続可能な経済を実現していますが、それは「労働者協同組合」という仕組み(自分たちでお金を出している会社で働く方式の組織)が鍵を握っているのかもしれません。また、ここでは地元の人々が資金を出したモールで地元の人が買い物をするという仕組みもあり、地元消費で生まれる利益が、うまく地元の人々にもどっていくようです。
 自分たちの地域にとって何が一番いいことか、自分たちで考え、仕組みを作り、行動していくことが大事なのでしょう。
 現在、日本は「コロナ禍」にあって地方経済も縮小している感じですが、木下さんはこれを地方にとってのチャンスととらえているようです。次のような記述がありました。
「これまで地方の人が都市部の市場を担うためには、基本的には都市部に出店する必要がありました。それが都市部の人の働き方が変わりオンライン化が進むことで、地方にいながら都市部の市場を攻める、従来型の商圏に縛られない多様な商売が可能になっていきます。自分なりの軸を作り出した取り組みは、困難をむしろチャンスに変えることすらあるのです。」
 ……コロナ禍は、むしろ地方活性化のチャンスなのかもしれませんね!
「まちづくり」に潜む問題(幻想)と、その改善策を教えてくれる本でした。地方再生に取り組んでいる方は、ぜひ読んでみてください。何かヒントをつかめるかもしれません。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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