『こうして管楽器はつくられる ~設計者が語る「楽器学のすすめ」~』2019/7/22
竹内 明彦 (著)

 管楽器が鳴っているとき楽器の中では何が起こっているのかを、物理学的に(数式を使わずに)説明してくれる本です。
 超有名な楽器メーカーのヤマハで、長年、管楽器開発・設計に携わってきた著者の竹内さんが、楽器を設計製造する立場から、音に関すること、知っていると演奏に役立つ知識等について詳しく教えてくれます。
 一般の人が普通は知ることのない管楽器設計の考え方、特殊な製造工程についても紹介してもらえるので、管楽器奏者の人だけでなく、指導者や管楽器に興味のある音楽愛好家にとっても、興味深い内容が満載だと思います。
(なお本書は、管楽器専門誌「パイパーズ」に連載された竹内明彦氏のコラムをまとめ、ヤマハが開発した新種の管楽器「Venova(TM)」の開発物語を加筆して書籍化したものだそうです。)
 冒頭は、「管楽器が鳴っている時、楽器の中では何が起こっているか?」の解説から始まります。ここでは、「どこでも手に入る機材を使って目には見えない楽器内の空気の振動を観察」してみたとして、実験器具の説明、パソコンのセット(AUDACITYというソフトを使用)、そしてフルートの中と外での音の観察(録音波形)が、写真付きで説明されていました。上手な奏者のおかげで、きれいな波形を見ることが出来ました……が、説明がすごく専門的で……ちょっと、ついていけない感じがしました(汗)。この後の解説も、かなり専門家向けの話が多くて、「空気柱の空洞共鳴の周波数と管体の形状の関係」など、すごく興味深かったのですが……残念ながら、きちんと理解はできませんでした。正直に言って、ただ楽器演奏や音楽を聴くことが好きなだけの素人にとっては、ここまで理解する必要は特にないな、と感じるほど専門的な話が多かったように思います。それでも、この本を読んだ意義は十分あったと感じました。楽器の製造というのは、こんなにも、いろんな研究を経て真摯に行われているんだなーということが分かったからです。
 また楽器演奏の時に、知っておいて損はないヒントも拾うことが出来ました。そのうち、いくつかを抜粋して、以下に紹介します。
「金管楽器の管内には、水、油をはじめ、さまざまな残留物が残されています。毎日の演奏後の水抜きや、定期的な洗浄などでメンテナンスされていればいいのですが、なかなかそうもいかないのが現状かもしれません。これらも、管内に定着して錆を発生させるなど、空気柱の形状を当初の形から変えてしまって、音程や音色、鳴りなどに影響を与えます。(中略)「明日は演奏会だから楽器をきれいにしよう」と思って、普段はおこなっていない管内の掃除を綿密におこなったところ、「倍音のツボが変わってしまって、肝心の演奏会の本番で、ここぞという時に大事なフレーズの音を外して大失敗した」などという結果になる可能性があります。ご用心を!」」
「マウスピースのはめ方によってはさまざまな反応を感じる結果となります。つまり、マウスピースをはめる円周方向場所によって、接続部の内径の絞まり方、あるいは芯ズレが変わるということです。全体的な鳴りにも影響しますが、特に高音部の特定の音のアタリや鳴りが変わることになります。このような場合、マウスピースをマウスピース・レシーバにはめた時に油性ペンなどで印をつけて、90度ごとに演奏して反応を評価し、さらに詳細に状態の良い場所を探り出すと、マウスピースをはめる望ましい場所が見つかることでしょう。」
 ……演奏会の前日に、普段していないほどの念入りな清掃というのは、結構しがちなような気がしますが……むしろ、やめた方がいいようです。
 また巻末には、ヤマハから発売されている新しい管楽器「Venova」の開発物語が紹介されていました。
「2017年にデビューしたVenovaは、シンセサイザーの開発から派生した理論、技術を応用、発展させて、コンピューターによるシミュレーションを駆使し、3Dプリンターを多用した試作によって調整され、独自の様式でデザインされ、最新の成型技術によって量産することが可能になった、新種の管楽器として世に出すことができたものです。」
 ……個人的には、新型の管楽器よりも、練習用の音の小さい管楽器が欲しいです。例えばサクソフォンなど、運指練習がかなり必要そうに見える楽器の場合は、少なくとも運指練習部分だけは本物の楽器と同じで、音が小さくて軽くて安い入門用の楽器があるといいのになーと思うのです。この場合、必ずしも「管」である必要はなく、楽器のキーと連動させて音を鳴らす機械があればいいので、玩具みたいな感じの電子楽器(またはスマホ)でも構わないのですが……。
 えーと、それはともかく、楽器の開発・製造でも、やっぱりコンピューターや3Dプリンターなど、最新技術が活用されているんですね! 楽器の開発・製造には、コンピューターのAIも活かせるのではないかと思います。例えば楽器製造中のチューニングには、AIの機械学習による自動化が活用できそうに思いますし、3Dプリンターは試作だけでなく、楽器の修理にも活かせるのではないでしょうか。古い楽器だと、部品在庫がなくて修理できないということがありますが、これからは、設計図さえあれば、どんな部品でも、3Dプリンターで製作可能になるのではないでしょうか(なって欲しいと思います)。
 管楽器の発音の原理から設計・製造の舞台裏まで、詳しく知ることが出来る本でした。かなり専門的な内容ではありますが、音楽好きの方、楽器演奏をする方にとっては、勉強になるのではないかと思います。読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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