『サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福』2016/9/8
ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (翻訳)
『サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福』2016/9/8
ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (翻訳)
なぜ我々はこのような世界に生きているのか? ホモ・サピエンスの歴史を俯瞰することで、現代世界を鋭く抉り世界的ベストセラーになった歴史の本です。
……テーマが歴史、しかもどう見ても長くて読みにくそうに見えるのに、世界的超ベストセラーになった驚異の本ですが、私自身は、この本の人気が高くて漫画の本が出てしまったため先にそれを読んでしまい、エッセンスを手軽に読めた気になって、元の本の方は長らく放置してしまっていました(汗)。遅まきながら読んでみましたが……もの凄い情報量に圧倒されるとともに、独自の視点で鳥瞰される人類史解説のおかげで、世界や歴史を再評価するきっかけを与えてもらった気がします。すごく長くて読むのは大変でしたが、とても有意義な時間になりました。
「第1章 唯一生き延びた人類種」に、この本の中心テーマが次のように書かれています。
「歴史の道筋は、三つの重要な革命が決めた。約七万年間に歴史を始動させた認知革命、約一万二000年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そしてわずか五00年前に始まった科学革命だ。三つ目の科学革命は、歴史に終止符を打ち、何かまったく異なる展開を引き起こす可能性が十分ある。」
認知革命や農業革命については、この本の漫画版に関する感想記事でも書いているので、ここでは科学革命やサピエンスの未来について書かれた部分を中心に感想を書かせていただきます。印象に残った記述のごくごく一部を紹介させていただくと、次のような感じ。
「第15章 科学と帝国の融合」から
「歳月が流れるうちに、知識の征服と領土の征服はますます強く結びついていった。一八世紀と一九世紀には、遠く離れた土地を目指してヨーロッパを出発する重要な軍事遠征のほとんどには、戦うためではなく科学的な発見をするために科学者が同行していた。」
「第16章 拡大するパイという資本主義のマジック」から
「経済の近代史を知るためには、本当はたった一語を理解すれば済む。その一語とはすなわち、「成長」だ。」
「この制度では、人々は想像上の財、つまり現在はまだ存在していない財を特別な種類のお金に換えることに同意し、それを「信用」と呼ぶようになった。この信用に基づく経済活動によって、私たちは将来のお金で現在を築くことができるようになった。信用という考え方は、私たちの将来の資力が現在の資力とは比べ物にならないほど豊かになるという想定の上に成り立っている。将来の収入を使って、現時点でものを生み出せれば、新たな素晴らしい機会が無数に開かれる。」
「過去五〇〇年の間に、人々は進歩という考え方によって、しだいに将来に信頼を寄せるようになっていった。この信頼によって生み出されたのが信用で、その信用が本格的な経済成長をもたらし、成長が将来への信頼を強め、さらなる信用への道を開いた。」
「投資はみな、何らかの形で生産を増やし、結果としてより大きな利益を生む必要がある。新しい資本主義の信条における第一にして最も神聖な掟は、「生産利益は生産増加のために再投資されなくてはならない」だ。これが資本主義が資本主義と呼ばれる所以だ。」
「第17章 産業の推進力」
「資本主義と消費主義の価値体系は表裏一体であり、二つの戒律が合わさったものだ。富める者の至高の戒律は、「投資せよ!」であり、それ以外の人々の至高の戒律は「買え!」だ。」
「第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ」から
「ハーヴァード大学のジョージ・チャーチ教授は最近、ネアンデルタール人ゲノム計画が完了したので、今や私たちは復元したネアンデルタール人のDNAをサピエンスの卵子に移植し、三万年ぶりにネアンデルタール人の子供を誕生させられると述べた。」
「アメリカ軍の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)は、昆虫のサイボーグを開発している。電子チップや探知機、プロセッサーをハエかゴキブリの体内に埋め込み、それを使って人間あるいは自動オペレーターが動きを遠隔操作し、情報を収集・送信できるようにするという発想だ。(中略)二〇〇六年、アメリカの海中水中戦センター(NUWC)は、サメのサイボーグを開発する意図を発表し、「NUWCは、神経インプラントを介して動物の行動を制御する目的の魚類用タグを開発中」であることを表明した。開発者たちは、サメが生まれつき備えている磁気検知能力を利用し、潜水艦や機雷の周囲に生じる水中の電磁場を検知することをもくろんでいる。(中略)
サピエンスもサイボーグに改造されつつある。最新世代の補聴器は、「バイオニック・イヤー」と呼ばれることがある。この種の補聴器は埋め込み式で、耳の外側の部分に取りつけたマイクで音を拾う。インプラント(埋め込まれた部分)が音をフィルターにかけ、人間の声を識別し、電気信号に変え、主要な聴覚神経に直接送り込み、そこから脳へ伝える。」
……私たちは、なんか、すごい時代に入りつつあるようです。
いろいろな意味で、とても参考になり、また考えさせられる本でしたが、「第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和」には、賛同できなかった記述もありました。それは次のもの。
「今後あらゆる平和賞を無用にするために、ノーベル平和賞は、原子爆弾を設計したロバート・オッペンハイマーとその同僚たちに贈られるべきだった。核兵器により、超大国間の戦争は集団自殺に等しいものになり、武力による世界征服をもくろむことは不可能になった。」
この記述は、現代がこれまでになく「平和な時代」になっている理由を述べている部分に出てきます。平和な時代になった理由としてハラリさんは次の4点をあげています。
理由1)戦争の代償が劇的に大きくなった。
理由2)戦争の利益が減少した(簡単に略奪できない知識やシステム構造が価値を持っている)
理由3)平和からこれまでにないほどの利益が挙がるようになった
理由4)グローバルな政治文化の構造的転換が起こった
……この「理由1 戦争の代償」の中で、皮肉として「原爆設計者にノーベル賞」と書いているのは分かるのですが、たとえ皮肉であっても言って欲しくなかったと感じました。
えーと……歴史の中で圧倒的勝ち組にのし上がってきた私たちサピエンスは、その愚かさで世界を、そして自らを不幸にしているのかもしれません。「あとがき」には、次のように書いてありました。
「不幸にも、サピエンスによる地球支配はこれまで、私たちが誇れるようなものをほとんど生み出していない。私たちは環境を征服し、食物の生産量を増やし、都市を築き、帝国を打ち立て、広大な交易ネットワークを作り上げた。だが、世の中の苦しみの量を減らしただろうか?」
……私たちは今、科学革命の時代を生きています。今後の世界をどうしていくべきなのかは、私たち自身にゆだねられています。ハラリさんは次のように語っています。
「唯一、私たちに試みられるのは、科学が進もうとしている方向に影響を与えることだ。私たちが自分の欲望を操作できるようになる日は近いかもしれないので、ひょっとすると、私たちが直面している真の疑問は、「私たちは何になりたいのか?」ではなく、「私たちは何を望みたいのか?」かもしれない。」
……サピエンスの長大な歴史を、独自な視点で鳥瞰して見せてくれる本でした。
「歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を拡げ、現在の私たちの状況は自然なものでも必然的なものでもなく、したがって私たちの前には、想像しているよりもずっと多くの可能性があることを理解するためなのだ。」
……とても勉強になり、いろいろなことを考えさせてくれる素晴らしい本でした。みなさんは、何を感じるでしょうか。ぜひ読んでみてください。
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