『マンションの「音のトラブル」を解決する本』2021/1/27
井上勝夫 (著)

 マンションのトラブルは「音」に関するものが多いそうです。この本では、いくつかの具体的事例を交えながら、音の原因、被害者・加害者にならないためのポイント、管理組合の役員になったときにおさえておくべきこと、そしてマンション購入・リフォームの留意点を、建築音響の第一人者の井上さんが分かりやすく解説してくれます。
 マンションの音のトラブルというと、テレビや楽器の音(空気音)を想像してしまいがちですが、実は深刻な音トラブルには、どすどす走る足音や、ドアや襖を勢いよく閉めたときの音、風呂やトイレの給排水音、エレベーターの音など、配管や壁、床を通して振動が伝わる音(固体音)の方が多いそうです。
 しかもこの固体音は、音源が予想とはまったく別なところにあるケースも多いようで、真上の部屋の音かと思っていたら、実は3階も下の住戸から壁を伝わって響いていた音だったという事例もあるそうです。そんなことも、あるんですね……。
 個人的にとても参考になったのが、「第4章:まずは加害者にならない」。次のようなことが書いてありました。
・クレームがきたら、相手の言い分に誠心誠意耳を傾け、1)どんな音が、2)いつ、3)どこから聞こえるのか、を具体的に聞く
・意外に響く低周波音(人の歩行音、洗濯機やエアコンの室外機運転音)に注意する
・ドア、ふすま、カーテンの開け閉め、掃除機の音には注意する
・「軽量床衝撃音」には部分敷きマットやラグで対処、「重量床衝撃音」は床材による効果はほとんどないと考えよう。また二重床は必ずしも防音対策の切り札にはならない。
・家の中で走らない、深夜の生活音に配慮する、テレビ・ステレオの音量は小さくするなど、住まい方に注意する。浴室の発生音防止には浴室内マットを敷いたり、使用する時間帯に配慮する
・トイレの洗浄音、給水音がうるさいときは、使用する時間帯に留意したり、消音タイプのものに取り替える
・日頃から挨拶やコミュニケーションに気をつけ、人間関係を築いておく。こじれたら第三者に入ってもらう。
 ……などなど。
 でも、このように気をつけていても、もしかしたら苦情がきてしまうかもしれません。本当に「音の問題」って難しいよな……音トラブルが原因の殺人事件さえあったしな……読んでいるうちにどんどん心配になってきたら、次のような記述があって、少しホッとしました。
「裁判では、音の苦情を訴えた原告が勝訴するケースより敗訴するケースが多いのです。それは人が生活する以上、ある程度の生活音はやむなしと判断さえる場合が多いからです。音を出すほうが常識はずれの音を出していれば別ですが、聴こえる音のレベルが50デシベル程度以下なら、訴えたほうが負けるケースが多いと考えましょう。ですから通常の生活をしていれば、訴えられてもそれほど心配することはないはずです。
 ただし、訴えられた被告のほうが、音のクレームに対してまったく対処をしていなければ、裁判官の心象は悪くなるので、敗訴する可能性もあります。そのためにも、クレームに対しては誠心誠意、対処しましょう。」
 ……そうか。普通程度に「音」に気をつかって生活していれば、あまり心配はいらないのかもしれません。
 この本には他にも、「第5章 被害者になったらどうする?」、「第6章 管理組合の役員になったら?」、「第7章 リフォームするさいに気をつけること」、「第8章 買うときはここをチェック」など、マンションに住む人にとって参考になる情報が多数掲載されていました。マンションに住んでいる方や、購入を検討している方は、音に関するトラブルを防ぐために、ぜひ一度読んでみてください。お勧めです。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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