『MaaSが都市を変える: 移動×都市DXの最前線』2021/3/6
牧村 和彦 (著)
スマートシティの実装を海外の先進事例から解説、世界で躍動する移動×都市DXの最前線を紹介してくれる本です。ちなみにMaaSとは次の通りです。
「MaaSとは、さまざまな移動サービス(公共交通機関、ライドシェアリング、カーシェアリング、自転車シェアリング、スクーターシェアリング、タクシー、レンタカー、ライドヘイリングなど)を統合し、これらにアクセスできるようにするものであり、その前提として、現在稼働中で利用可能な交通手段と効率的な公共交通システムがなければならない。このオーダーメイドなサービスは、利用者の移動ニーズに基づいて最適な解決策を提案する。MaaSはいつでも利用でき、計画、予約、決済、経路情報を統合した機能を提供し、自動車を保有していなくても容易に移動、生活できるようにする。」
そして日本版MaaSとして、2019年の「成長戦略実行計画」モビリティ分野の重要な柱が次の3つであることが紹介されていました。
1)交通事業者が協力する自家用有償旅客運送制度の創設
2)タクシーの相乗り導入
3)MaaSの実現
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さらに MaaSの先進的な取り組みとして、「Googleの自動運転によるオンデマンド交通サービス事業開始(2018年12月)」とか、「ドイツのハンブルクで自動運転バスHEATの実証運行開始(2019年8月))とか、「アメリカの連邦交通局のMODプロジェクト(2019年から実証実験)」などの海外の事例が多数紹介されていました。
MaaSというと、これまでは、「自動運転」とか「自分好みの交通手段が自由自在に選べるMaaSアプリ」などの「技術」の紹介が多かったような気がしますが、この本では、「都市への実装」が多数紹介されています。海外では、ついに実社会が、MaaSを実現させるために変わり始めていることを、ひしひしと感じさせられました。
例えば、今後は「路肩」が変わり始めるのかもしれません。次のように書いてありました。
「MaaSの普及は、道路の路肩にも大きな影響を与え始めている。路肩とは歩道と車道の間の空間であり、縁石とも呼ばれる。世界では「路肩の争奪戦」が始まっており、アメリカでは「カーブサイド・マネジメント」という新しい計画概念も生まれている。広く配車サービスが普及している欧米においては、タクシーを流しで拾うのではなく、スマホで呼んで利用するという習慣が定着している。その場合、車寄せがあるビルは限られており、施設に近い道路上で乗降することが一般的だ。本線上での乗降は、後続車の安全を脅かし、渋滞を誘発する恐れもあることから、道路上での乗降が頻発する区間では路肩の存在が重要になってくる。つまり、このような路肩空間がある場所や施設の価値が今後高まっていくことを意味する。」
その他にも、「渋滞ジャンプ(特定車両の先出信号)」、「ラウンドアバウト(円形交差点)」、「レーン・ドロップ」、「レーン・アディション」など、道路や信号など道路設備の側が、「自動運転」しやすいように変わっていくのかもしれません。
とは言っても、MaaSに合わせて「都市の方を変える」というのは、なかなか困難なような気がしますが、なんとフランスのパリ市では、コロナ禍を利用して、次のような大胆な変更を行ったそうです。
「ロックダウン解除後のパリは、これまでのパリのイメージを根底から覆す、クリーンな新しい街に生まれ変わりつつある。(中略)大胆な計画をわずか数日で実行したのが、パリ市初の女性市長アンヌ・イダルゴ氏だ。(中略)
2020年5月11日には、移動を回復するための「復興計画」を市が提案。翌日にはサンミッチェル大通りの一部を自転車レーンに変更し、翌13日にはなんと一晩で地下鉄と並行する街路などを対象に、車道と分離した30kmの自転車レーンが登場した。(中略)
そしてロックダウンからわずか数週間で、パリはオランダと見違えるほど、自転車や電動キックボードが行き交う街に変貌を遂げた。(中略)
今回の復興計画は、ロックダウン後に増加が想定される自動車利用を事前に徹底的に抑え込み、また、自動車需要が回復する直前の道路が空いている時期に、タイミングを逸することなく一気に実行に移された。この英断は、市民に多様な移動の選択肢を増やすことに今のところ成功したと言ってよいだろう。移動における感染のリスクを軽減しながら、安心して走行できる空間を確保し、移動需要の回復、グリーンなモビリティの需要を増やすことで、グリーン・リカバリーの実現に邁進している。」
その後、同様の動きがフランス全土に拡大し、ドイツやイタリア、イギリスなどでも次々に自転車レーンが拡がっているそうです……政治家の力って凄いですね……。
さて日本でも、実験都市「ウーブン・シティ」がいよいよ始まります。
「日本でも都市開発と移動サービスが一体となった実験都市「ウーブン・シティ」がトヨタ自動車主導で2021年から着工される。モビリティ革命の進展に応じて都市を柔軟に「カイゼン」していく「未完成の都市」がコンセプトだ。」
日本の国土交通省は、ビジョン「2040年、道路の景色が変わる」を2020年6月に公表。次のような5つの将来像を具体的に予測しています。
1)通勤帰宅ラッシュが消滅した社会
2)公園のように道路に人があふれる社会
3)人・モノの移動が自由化・無人化した社会
4)店舗(サービス)の移動で街が時々刻々と変化する社会
5)災害時に「被災する道路」から「救援する道路」になる社会
また、「持続可能な社会を実現していくために目指すべき3つの大きな方向性」は次の通りです。
1)全国どこにいても、誰もが自由に移動、交流、社会参加できる社会
2)世界と人・モノ・サービスが行き交うことで活力を生みだす社会
3)国土の災害脆弱性とインフラ老朽化を克服した安全に安心して暮らせる社会
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『MaaSが都市を変える』……世界が変わりつつあることを、具体的な先進事例で教えてくれる本でした。ビジョン「2040年、道路の景色が変わる」にあわせて、日本の社会もよりよい方向に変わっていくことを期待したい(支援していきたい)と思います。
今後の社会がどうなっていくか(どうすべきか)に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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