『国宝の解剖図鑑』2018/5/3
佐藤 晃子 (著)

 日本の国宝の凄さや見どころを大解剖してイラストで分かりやすく紹介してくれる本。約100件の国宝が取り上げられていて、その一例は次の通りです。
深鉢形土器(火焔型土器)、土偶(縄文のヴィーナス)、金印、
天寿国繍帳、玉虫厨子、片輪車蒔絵螺鈿手箱、曜変天目、
高松塚古墳壁画、仏涅槃図、源氏物語絵巻、平家納経、鳥獣人物戯画、地獄草子、餓鬼草子、病草紙、信貴山縁起絵巻、伴大納言絵巻、山越阿弥陀図、伝源頼朝像、慧可断臂図、洛中洛外図屏風、楓図襖図、松林図屏風、風神雷神図屏風、紅白梅図屏風、雪松図屏風
釈迦三尊像、救世観音、阿修羅立像、盧舎那仏坐像、鑑真和上坐像、千手観音菩薩坐像、東寺立体曼荼羅、阿弥陀如来坐像、金剛力士像
法隆寺五重塔、正倉院正倉、薬師寺東塔、薬師三尊像、平等院鳳凰堂、中尊寺金色堂、三佛寺奥院(投入堂)、蓮華王院本堂(三十三間堂)、厳島神社、銀閣、姫路城、日光東照宮陽明門、大浦天主堂、旧閑谷学校講堂、出雲大社本殿、富岡製糸場、迎賓館赤坂離宮、など。

 どれも本当に素晴らしい名品ぞろいです。この本の「はじめに」には次のように書いてありました。
「国宝に選ばれた文化財は、何百年、何千年もの時を超え、今に伝わったものである。そうした貴重な文化財の中から、専門家がその時代、そのジャンルの中で、とくに出来栄えが優れ、オリジナリティーがあり、歴史的に価値があるものを慎重に選んでいく。だから国宝をみれば、選りすぐりの作品に接することになり、自ずと見る目が養われる。そして実際に目にした印象を記憶に留めておけば、次に別の作品を見た際に、国宝は何が違うのか、その良さを実感することができる。」
 ちなみに国宝には8分野(建造物、絵画、彫刻、工芸品、書籍・典籍、古文書、考古資料、歴史資料)、計1,100件の文化財が指定されているそうです(この本の出版時)。(なお重要文化財は1万3000件以上)。
 意外だったのは、「国内になければ国宝ではない(名品でも海外美術館にあるものはダメ)」、「外国産の国宝もある(約1割が外国産)」ということ。国宝は「国内の文化財の保護のために指定する」ものだからです。ちなみに国宝に指定されている陶磁器14件のうち、中国陶磁が8件、高麗茶碗1件と、陶磁器については大半が外国産なのだとか。
 また皇室の私有品(御物)など宮内庁が管理するものは、慣例的に国宝の指定を受けないので、正倉院宝物、桂離宮など有名でも国宝になっていないものもあるそうです。
 この本では、そんな国宝のうち約100件をイラストで細かく見ることが出来ます。100件のうち半数以上は実物か複製を博物館などで見たことがありましたが、長時間じっくり見たことはなかったので、とても興味深かったです。
 例えば「法隆寺の玉虫厨子」は、側面に「捨て身思想」の仏教説話の絵が描かれていて、これは「日本最古とされる仏教説話」だそうです。崖の上で服を脱いだ前世の釈迦が、崖から飛び降りて飢えた虎の親子に自らの身を捧げ、食べられるという一連の流れが描かれているのですが……博物館で複製を見たときには、こんなお話が側面に描かれていることに、まったく気づきませんでした(汗)。
 そして、見ていて楽しかったのが、アニメのようにも見える「鳥獣人物戯画」と「信貴山縁起絵巻」。動物や人物のポーズも面白くて大好きな絵巻です。「法隆寺の玉虫厨子」の仏教説話にも、これらの絵巻と同じように、一つの画面にアニメーションのように動きのある絵が描かれていましたが、「鳥獣人物戯画」の発想のルーツは、こういう仏教説話にあったのかもしれません。
 また「伴大納言絵巻」は、政府要人が放火犯だった? という実録政界ドラマが描かれているそうで、興味津々で見入ってしまいました。絵と文章で描かれたミステリー小説みたい……。
 そして「山越阿弥陀図」。このような来迎図の軸や屏風が「御臨終の実用品だった」ことを、この本で初めて知りました。「来迎図の軸や屏風、阿弥陀如来像を亡くなる人の傍に置き、仏を強く念じ、自分が極楽往生するイメージを強く持つことが重要とされる。」そうです。この「山越阿弥陀図」には、阿弥陀の胸と右掌に穴があり、そこに五色の糸がついていたらしいのです。死にゆく人は、その糸のもう一方の端を握り、薄れゆく意識の中でこの仏画を見ながら亡くなったといわれているのだとか……「山越阿弥陀図」のような絵は、ただの飾りではなかったんですね。
 また彫刻部門では、千本以上の手が本当にある葛井寺の「千手観音菩薩坐像」に驚かされました。実物を見たことはありませんが、イラストで見ると、合掌手2本、大脇手38本の他に、箒のような細かい小脇手1001本がびっしりついているのです(全部で1041本)。なお、一般的な千手観音の手は、合掌手2本+脇手40本の合計42本だそうで、これは脇手1本につき25の世界の人々を救うと考えるためなのだとか。
 さらに建築でも、「法隆寺五重塔」に、スカイツリーでも使われている優れた耐震構造があることを知って驚きました。世界最古の木造建築でありながら、この地震の多い日本にあって、創建以来倒れたことのない五重塔……心柱を他の骨組みに接合させず、あいだに空間を設けるという耐震構造なのですが、こんな仕組み、いったい誰が考案したんでしょう? 凄いですね……。
 その他にも、平等院鳳凰堂の屋根の鳳凰には、頭部に毛形がついていた(そのための32個の穴がある)など、意外な豆知識も満載です。
 どの国宝も、どこにあるのかの所在地データが簡単に記載されていますので、実際に見に行くための参考にもなります。
 ちなみに、見に行くのがとても困難な「日本一危険な国宝」の「三佛寺奥院(投入堂)」は、「参拝登山にかかる時間は往復で90~120分ほど。万が一に備え、2人以上で参拝せねばならず、1人の場合は居合わせた人と行動を共にする決まりになっている」そうです。「仰ぎ見るには、滑りやすく険しい急斜面を、ときには木の根を掴みつつ這い登らなければならない。道の途中から投入堂は見えないが、最終地点の不動堂まで行くと、ようやくその姿を現す。滑落の危険と隣り合わせになりながら、ようやくたどり着く国宝建築だ。」とのこと……投入堂は写真でしか見たことなかったけど、あれはそんな国宝建築だったんだ……。
 いろいろな国宝をイラストで分かりやすく紹介してくれる本でした。とても勉強になるので、興味のある方は、ぜひ眺めてみてください。
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