『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』2021/2/12
日経コンピュータ (著)

 20年かけて政府が積み上げたIT戦略やITインフラが、新型コロナ対策で役に立たなかった。まさにデジタル敗戦だ――「デジタル庁」創設に挑む平井卓也デジタル改革相は、こう反省の弁を述べたそうです。年金システムから特許庁システム、マイナンバー関連システムまで、20年にわたる電子政府/システム調達改革の歴史から、失敗の教訓を読み解いている本です。
「第2章 電子政府を巡る20年の大混乱」には、20年の推移が書いてありました。
1999年代:メインフレームと大手ベンダーに依存、高コスト構造が問題に
2002年:脱レガシー、競争・新規参入を促す改革でコスト削減へ
2007年:分割発注の弊害などで調達の失敗が相次ぐ
2013年:方針転換、政府のIT発注能力を高める改革
2018年:クラウド活用で効率化・コスト削減へ
2020年:コロナ禍でIT調達に混乱、再び改革へ
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 これらの失敗には、次のような様々な原因があったようです。
・政府のシステム調達体制に問題
・過小な工数見積もり、機能不十分、開発スケジュール遅れ
(政府はリソースや制度について十分に検証していない)
・官公庁業務の効率化や官公庁同士の連携という統一的な視点の欠如
 そして「第1章 2020年、日本は「敗戦」を喫した」で、衆院議員の平さんが指摘するように、次の3つの「壁」もIT活用を阻んだのです。
1)省庁ごとや部局ごとの「縦割りの壁」
2)自治体と中央政府の間の「横割りの壁」
3)国が情報を管理することへ漠然とした不安感を抱く「国民の壁」
 これまでの失敗を教訓として、新しく創設される「デジタル庁」には、これらの3つの壁を乗り越えていって欲しいと願っています。
 具体的には、IT戦略やITインフラを作り上げる人材を集めて育てることが不可欠でしょう。これらの人材には、ITの技術力だけでなく、新しいシステムへ対応できるよう現状の業務やシステムを整理する力も求められます。
 自治体ごとにバラバラなシステムは、共通化することで全体としての開発・保守コストを大幅に下げられると思いますし、とりわけ小さな自治体にとってはメリットが大きいのではないでしょうか。
 今後のデジタル庁の活躍に期待したいと思います。
「第8章 デジタル庁設立への提言」には、さまざまな提言がありましたが、個人的に同意見だと感じたのは、「住民メリット生み出す標準化を―Japan Dig ital Design CTO(最高技術責任者) 楠 正憲 氏」の次の文章でした。
「2025年度にいきなり1つのシステムに統一するのは難しい。最初はベンダーごとに(個別運用していたシステムを1つに)集約するといった策が現実的だ。大規模な制度改正やリプレースで何年かおきにシステムをブラッシュアップするなかで、徐々に1つにまとめるといった現実的な落としどころを探る必要がある。」
 また、「データガバナンスの強化望む―武蔵大学教授 庄司 昌彦 氏」の次の意見にも賛成です。
「データに対する政府のガバナンスが利いていることを制度的に担保していくべきだ。具体的には、会計検査院のデータガバナンス版が必要だろう。」
 かなり遅れていると感じられる政府や自治体のデジタル化ですが、現実を無視した突貫工事をしようとすると、さらなる失敗システムを積み上げてしまう可能性があります。新しいデジタル庁の職員には、IT技術に秀でている人材だけでなく、現行業務に詳しい実務人材も不可欠でしょう。
 また「段階的システム化」を円滑・着実に進めていくためには、人材の大半を新規システムに集中投入するとともに、残りの人材の一部には、「その次にシステム化すべき業務」を調査検討させておくべきでしょう(その人たちが、「その次の新規システム」の中核を担う)。
 これまでの失敗を教訓としてどう活かすかを考察するために、20年にわたる電子政府/システム調達の経緯を見直している本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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