『デジタル化する世界と金融―北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓』2020/8/31
山岡 浩巳 (著), 加藤 出 (著), 長内 智 (著), 中曽 宏 (監修)

 IT先進地域として注目を集める北欧のデジタル化の現状を紹介してくれる本で、内容は以下の通りです。
序 章 新たな金融産業の構築に邁進するダイナミズム(中曽 宏)
第1章 スウェーデン
第2章 フィンランド
第3章 エストニア
第4章 金融は”Super Fun”(超楽しい!))
あとがき―「北欧フィンテック・キャッシュレス視察団」に参加して
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 北欧フィンテック・キャッシュレス視察団は、街からATMが姿を消したスウェーデンではキャッシュレス化の実情を、フィンランドでは人の移動に革命をもたらすMaaSを、そしてエストニアでは電子国家とオープン化を視察した内容を紹介しています。
 スウェーデンのストックホルムでは、2017年頃から「現金お断り」の商店、飲食店が増え始めたそうです。人々の生活には、モバイル決済ネットワークSwishが不可欠で、現金の利用低下がどんどん加速しているようです。
 その一方で、急激なキャッシュレスは、デジタル技術についていけない高齢者や移民には不便で、反対運動も起こっているそうです。実は政府自身も、戦争やテロ、自然災害の観点から、むしろ現金保有を推奨していて、現金を完全になくしてしまおうとまでは考えてないようですが……。
 キャッシュレス化を進めるためには、その前提として国民のデジタル・リテラシーを高める必要がありますし、銀行で削減された人員の再就職の問題も発生します。こうした問題には、スウェーデンでは「リカレント教育」を行うことで対応しているようです。
 リカレントとは「繰り返し流れを変える」という意味で、学校卒業後に社会に出てからも、人々は必要に応じて職業専門学校や大学などで新たに学び直すことができるというもの。政府がその費用を補助しているそうです。なんと「スウェーデンの25~64歳の成人のうち、過去4週間以内に教育または職業訓練を受けたことのある人は29.6%もいたという(2016年)」という状況なのだとか。
 この本では、北欧で進行中の「支払決済のキャッシュレス化」への流れは、他の国でも、スピードの差はあれ、止められないだろうと予測しています。その理由は以下の4つだそうです。
1)デジタル化が現金のハンドリングコストの節約や取引の効率化につながるという経済合理性。
2)各国で、新たな企業が支払決済分野に続々参入。既存の銀行も、これら新規参入者に対抗していく観点から、「ポスト現金」のビジネスモデルを構築することが必要不可欠に。
3)マネー・ロンダリングへの規制強化も、「匿名性」を特徴とする現金利用に制約をかけ、とりわけ高額の支払い決済のキャッシュレス化を促す方向へ。
4)新型コロナウイルスへの対応面でも、リモート経済活動の増加やキャッシュレス化へ。
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 日本も今後は、経済、行政、教育、医療などのデジタル化およびリモート対応を、着実に進めていくべきなのでしょう。
 この本では、他にも自動運転の動きや、電子政府などに関する現状を知ることができました。
 危機感を抱かされたのは、北欧ではすでに「デジタル時代のスリ」という新しい犯罪が発生しているということ。非接触式カードが入っていそうなポケットやカバンにスキミング機材をそっと近づければ、カード所有者に気づかれずに金額を抜き取ることが可能になるそうです。北欧だけでなくロンドンでは、さらに高度な機材が使われていて、少し離れた場所からでもスキミングできるのだとか! 今後は日本でも発生するかもしれませんから、Suicaなどには、あまり高額チャージしておかない方が安全かもしれません……。
 もっと大きな危機管理として、電子化が進むエストニアでは、「自然災害や停電などを想定し、シェールオイルによる発電のほかに太陽光発電を増やすなど、電源の多様化にも努めている。」などの対策をしているそうです。
 金融のデジタル化、自動運転、電子政府の先行事例を知ることが出来る本でした。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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