『心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで』2017/4/15
キャスリン・マコーリフ (著), 西田美緒子 (翻訳)

 微生物などの寄生生物には、昆虫などを操って「子育てしてくれる新鮮食料」に仕立ててしまうものがいるだけでなく、私たち人間の脳神経に影響を与えて感情や行動を操っているものもいるのかもしれない……そんな寄生生物の実態を教えてくれる本です。
 この本を読んで、昆虫などに寄生する生物の徹底的な残酷さにすっかり戦慄してしまいました。
 たとえば蟻の脳に寄生する吸虫。運動と口器をコントロールする部分に居座って、寄生した蟻が、羊(吸虫の目的地)に食べられるような行動をするよう操っているようです。
 またコオロギに寄生するハリガネムシは、コオロギの神経化学物質とそっくりの物質を大量に生産することで、寄生したコオロギを水に飛び込ませてしまうのだとか……(怖っ!)。
 そして最高に気分が悪くなったのが、「第3章: ゾンビ化して協力させる」の、クモに寄生する寄生バチの話。寄生バチに卵を産み付けられたクモは、自分がとったエサが寄生バチの卵の栄養源とされてしまうだけでなく、一週間ほど成長した寄生バチに化学物質を注入されることで、その育児室用の巣を作らされ、最後は幼虫に殺されて体液を最後の一滴まで吸い取られたあげく、死骸は投げ捨てられるのです……うーん、なんてこった……(涙、涙)。
 もちろん人間に寄生するものもいます。例えばギニア虫と呼ばれる寄生虫は、人間の体内で成長し、人間の皮膚に痛くて痒い水ぶくれを作ります。痒くてたまらなくなった人間が、身近にある水に炎症のある体を浸すと、ギニア虫はその皮膚を打ち破って口から幼虫を吐き出すのです……ちっぽけな寄生虫が、人間の行動まで操作できるんですね……。
 そして気をつけなきゃ! と痛感させられたのが、「第4章: ネコとの危険な情事」のトキソプラズマ原虫の話。猫の体内で有性生殖するトキソプラズマ原虫が、人間の脳に入り込んで、交通事故や統合失調症などを起こしている可能性があるのだとか! もっともこれは、まだ推定の段階のようですが……。ちなみに「世界中の人口のおよそ30パーセントの人々は頭にトキソプラズマを住まわせているが、大半はその事実を知らない」そうなので、寄生されてもあまり致命的な状況にはならないのかもしれません。でもトキソプラズマは、ドーパミン、GABA、グルタミン酸塩、その他の重要な神経伝達物質を、脳の200カ所で変えていくそうなので、人間の行動に影響する可能性はありそうです。
 このトキソプラズマ原虫には、ネコからだけでなく、庭仕事でも感染する可能性があるそうなので、感染の危険性を小さくするためには、ネコのトイレ掃除によく気を配り、野菜をていねいに洗い、庭いじりで手袋をはめ、肉の中心までよく火を通す(あるいは冷凍する)のが、効果的だそうです。
 これらの「心を操る寄生生物」がよく利用しているのが、脳や神経に作用する化学物質で、寄生対象の生物に害悪を及ぼすことが多いようですが、良いことをしている場合もあるようです。
 例えば人間の体内には腸内をはじめ細菌が大量に棲息していますが、「第6章: 腸内細菌と脳のつながり」によると、これらは人間の健康にとって欠かせない働きをしています。
「腸内で暮らす微生物は私たちが食べるものから分け前を得ているが、そのお返しとして消化を助け、ビタミン類を合成するとともに、口から入った危険な細菌を安全なものにしてくれる。そのうえ、私たちの感情を調整しているおもな神経伝達物質のほとんどすべて、さらに精神活性作用をもつホルモンまで、大量に生産する役割を果たしている。」
 そしてこの腸内細菌の状態が悪いことが、鬱やASD(自閉スペクトラム障害)と関係している可能性もあるのだとか。……自分の腸内細菌は、ぜひとも良い状態に保っていたいものです。
 この他にも、物静かなマウスと社交的なマウスの腸内細菌を入れ替えると、性格も入れ替わってしまったという実験結果や、道徳や宗教・政治への影響、さらには文化・社会の違いを生み出してきたかもしれないなど、興味深い話をたくさん読むことができました。
『心を操る寄生生物』の実態を知ることが出来る本です。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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