『台風防災の新常識』2020/10/29
山村武彦 (著)
防災研究50年の山村武彦さんが、台風や暴風雨による水害、竜巻などの被害の検証結果を基に策定された「新しい時代の暴風雨災害マニュアル」を、詳しく解説してくれる本です。
地球の気候変動により、近年台風・暴風雨災害の激甚化が進んでいて、日本列島には毎年のように巨大台風が来襲、各地に甚大な被害をもたらしています。実は日本の都市の排水システムは、時間雨量50ミリが基準なのですが、それを越える大雨が降ってしまい、毎年排水機能をマヒさせているそうです。
でも……台風の危険性は知っていても、避難所に避難すべきかどうか、迷う人は増えているのではないでしょうか。新型コロナウイルスなどの感染症の恐れがある時代、避難所の衛生問題、収容人数の限界などの深刻な問題が浮き彫りになってきているからです。この本では、「自宅の安全が確認出来たら、原則、在宅避難を心掛ける」ことを推奨しています。
新型コロナウイルス発生前の災害ではありますが、西日本豪雨で被害が多かった広島市安佐北区、安佐南区、佐伯区で、避難指示が発令されても避難しなかった人の聞き取り調査の結果、避難しなかった理由の上位3つは、次の通りだったそうです。
1)避難場所および避難場所への経路が危険と思ったから
2)状況から、非難の必要がないと判断したから
3)自宅の方が安全と思ったから
……これ、すごくよく分かります。特に「夜に大雨」が発生した時とかは、周囲がよく見えない中で夜道を歩くことの方が危ない場合もあるような……でも、土砂崩れに巻き込まれるよりはマシなのか? 判断に迷ってしまいます。
そう考えると、やっぱり自治体のハザードマップなどで「安全と想定される場所」の「丈夫な構造の家」に住み、自宅を避難所にするのが一番なのでしょう。
どうしても避難場所へ移動しなければいけない場所に住んでいる方は、ぜひ一度は家から避難場所までを散歩して、移動経路が安全かどうかを確かめてみてください(雨の日や夜も含めて)。複数の移動経路を見つけておくとよいそうです。
そして、この本の中で、すごく参考になったのが、「在宅避難生活訓練」。これは「1日か2日、電気、ガス、水道、電話を止めて(止まったと思って)暮らす」という訓練で、実際にやるのは、かなり大変そうですが、そうなったことを想像して、食事や、トイレ、歯磨きなど、朝から晩まで、どのように生活しなければいけないかを、細かく頭の中でシミュレーションしてみるだけでも効果がありそう。
また「防災家族会議&防災用品点検」を定期的に行うというのも、とても大事なことだと感じました。この本には、「家族防災会議のテーマ(例)」も多数掲載されているので、その中の一つずつでもいいから話し合って、自宅の防災機能を高めていくと良いと思います(なお、食糧や水、電池、トイレなどの防災用品は、最低7日分の備蓄が必要だそうです)。
この他にも、「感染症蔓延時に災害が発生した場合の避難者心得」、「狂暴台風から命を守る5原則」、「台風への「マイ・タイムライン」の作成例」、「竜巻の主な前兆現象」、「土砂災害の主な予兆現象」など、参考になる大事な情報が満載でした。まさに、「一家に1冊備えておきたい「防災虎の巻」だと思います。ぜひ家族みんなで読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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