『BIG BUSINESS(ビッグビジネス) 巨大企業はなぜ嫌われるのか』2020/8/4
タイラー・コーエン (著), 飯田泰之解説, & 1 その他
GAFA=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンをはじめとする巨大プラットフォーム企業への批判と規制が高まる一方、私たちの生活や経済は、これら巨大企業への依存度をますます強めています。なぜ、こうしたギャップが生じるのか? 独占企業の力は本当に強まりすぎているのか? コロナ後の世界でいま問われる大企業の存在意義とは……経済学者のコーエンさんが、「いま、あえて大企業を擁護」している本です。
えーと……『巨大企業はなぜ嫌われるのか?』という副題つきの本ですが、個人的には巨大企業、それほど嫌いではないので、むしろ、え? そんなに嫌われてましたっけ? と疑問に感じてしまいました。日本人は大企業のことを好きな人が多いのではないでしょうか。自分の子どもがトヨタやパナソニックに就職してくれたら、でかした! と褒めてやりたくなりませんか?
だからこの本の中でコーエンさんがする大企業擁護の話には、すでに「知っていた」感を抱かざるを得ませんでした。
大企業は「私たちが喜んで使っている商品やサービスを提供」しているし、「多くの雇用(しかも給料高め)」を生んでいて、「社員に優秀な人材」が多く、しかも「社会的に信用できる組織」だし、「自由貿易と世界市民的思考」を推し進めてきている……まったく、その通りだと思います。
かつて日本の巨大企業のパナソニックが、自社の製品に不具合があったとして、回収を呼び掛けた広告を長い間行っていたことがありましたが、個人的にこの広告は、パナソニックへの企業イメージをむしろ好転させました。こんなに誠実な対応をしてくれる会社なんだ……と記憶に残ることになったのです。これは大企業の財力があってこそ出来たことだし、ブランドイメージが一度傷つくと、取り戻すのに莫大な時間と労力がかかることを知っていたからこその対応だとは分かってはいますが、パナソニックだけでなく、日本の製造業のイメージ全体を押し上げてくれたように感じます。
ということで、この本の「大企業擁護」話は、常識的な話ばかりだったように感じてしまいましたが、本書の中で唯一意外だったのが、「信頼ゲームでCEOはどう行動したか」。人と人の間にどの程度の信頼が存在するかを知るための実験を行ったところ、CEOは一般の人よりも、「他人を信頼し、みずからも他人からの信頼に値する行動をとる傾向があった」そうです。
アメリカのCEOと言うと、驚くほど高額な報酬を得ているというイメージがあったので、「ガメツイ」性格をしているのかなと密かに邪推していたのですが(汗)、「信頼」は高かったのですね……でも、考えてみれば、周囲の人々から大企業経営を託されるほどなのですから、人間として「信頼されている」人が多いのはむしろ当然なのでしょう。
そして「なるほど! 確かにそうかも」と思わされたのが、「第9章 大企業が嫌われる理由」にあった、「企業を憎むのは、親を憎むのに似ている」という指摘。「親はたいてい、わが子のために多くのことをする。ところが、そうした親の行動がもたらす結果に対して、子どもは少なくとも全面的には満足していない場合が非常に多い。」……確かに……そう言われると……いつも使っている商品を提供してくれる大企業を、私たちはなんとなく「親のような存在」だと感じているのかも(苦笑)。
大企業の存在意義とともに、アメリカの大企業がおかれている状況も知ることが出来る本でした。アメリカの経済社会やGAFAなどの大企業に興味のある方は、一度読んでみてください。
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