『錯覚の科学 (文春文庫)』2014/8/6
クリストファー チャブリス (著), ダニエル シモンズ (著), & 3 その他
「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、なぜ「見た」はずの船を見落したのか……日常の錯覚が引き起す記憶のウソや認知の歪みを、科学実験で徹底検証した『錯覚の科学』。内容は次の通りです。
実験I えひめ丸はなぜ沈没したのか? 注意の錯覚
実験II ねつ造された「ヒラリーの戦場体験」 記憶の錯覚
実験III 冤罪証言はこうして作られた 自信の錯覚
実験IV リーマンショックを招いた投資家の誤算 知識の錯覚
実験V 俗説、デマゴーグ、そして陰謀論 原因の錯覚
実験VI 自己啓発、サブリミナル効果のウソ 可能性の錯覚
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この本は、私たちに影響を与える日常的な六つの錯覚(注意力、記憶力、自信、知識、原因、可能性)にまつわる錯覚を取り上げながら、人の感覚や知識がいかにあいまいで不十分なものかについて、具体例を挙げながら立証してくれます。
とても面白かった(怖かった)のが、「見えないゴリラの実験」。バスケットボールの試合で、パスの回数を数える課題を与えられた人の多くが、試合中にゴリラの着ぐるみを着た人がコートに乱入したという驚きの出来事を、見落としてしまうという実験です。
この見落としは「予期しないものに対する注意力の欠如」から起こるのだとか。異常なことが目の前で起こっていても、何かに夢中になっていると他のことに「盲目状態」になってしまう……これ、すごくよく分かります。実は私自身にも、そういう傾向が大いにあるから。特に好きな漫画を読んでいると、周囲の音がまったく聞こえないほど集中してしまいます。そしてこれは悪いことばかりではないとも思っています。なぜなら、それだけ「集中力がある」とも言えそうな気がするから(笑)。注意力というのは、ゼロサムゲームなのだそうです。
「人間の脳にとって、注意力は本質的にゼロサムゲームである。一つの場所、目標物、あるいはできごとに注意を向ければ、必然的にほかへの注意がおろそかになる。つまり非注意による見落としは、注意や知覚の働きに(残念ながら)必ずついてまわる副産物なのだ。」
この本では、その他にも「記憶の錯覚」、「自信の錯覚」など、多くの錯覚の事例(実験)を見ることが出来ます。私は記憶力に自信がないので、絶対に事件の「目撃者」にはなりたくないなーと日頃から思っていましたが、この本を読んで、さらにその思いを強めてしまいました。「記憶は変容しやすい」のです。しかも、そもそも普段から周囲にあまり注意を払っていないので、何かが起こっていても気が付かないことが多いし……たとえ目撃者になっても、絶対に役に立たないだろうな……(汗)。
日常的な錯覚と、それがもたらしかねない災難について、「実験」を通して科学的に考察している本でした。この問題に解決法を見つけるのは、残念ながら難しいそうですが、錯覚の影響を減らしてくれそうな次の方法三つが、最後に紹介されていました。
1)日常的な錯覚の働きについて知ること(本書のような本を読むこと)
2)自分の認知能力をトレーニングで鍛えること
3)テクノロジーの力を借りること
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注意の錯覚(目を向けていても見落としてしまう)、記憶の錯覚(記憶は歪むことが多い)、自信の錯覚(自信ありげな態度を、相手の知識や能力のあらわれとして反射的に受け入れてしまう)、知識の錯覚(自分の知識の限界を自覚しない)、原因の錯覚(偶然同時に起こっただけの二つのことに因果関係があると思いこむ)、可能性の錯覚(自分の中に眠る大きな能力を簡単な方法で解き放てると思いこむ)……いろいろな「錯覚」があることを知り、何か大事なことを決めるときには「直感」に頼らずに「熟考」することが大事だということに気づかされました(多くの場合、直観は現代社会の問題解決に十分適応できないそうです)。
いろいろな面で人間の認知能力の限界を思い知らされた本で、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
なお、私が読んだのは単行本版でしたが、この本には、より新しい文庫本版がありますので、ここでは文庫本版を紹介させていただきました。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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