『自衛隊元最高幹部が教える 経営学では学べない戦略の本質』2017/12/1
折木 良一 (著)

「戦略」とは何か……映画『シン・ゴジラ』自衛隊トップのモデルとされる伝説の自衛官の折木さんが、自衛隊の戦略立案はもちろん、「きれいな戦略」が通じない人や組織の動かし方、日本人のもっている「集合的無意識」の本質、さらには「戦うために休む」ことの重要性を教えてくれる本です。
「第1章 なぜ経営学では「戦略の本質」を学べないのか」には、次の記述がありました。
「戦略とは、企業の「持続的な競争優位」を確立するための基本的な考え方のことであり、企業は戦略を策定することで、何を行うか、逆に何を行わないかという事業領域を明らかにできます。さらには経営資源(ヒト・モノ・カネ)投入の選択と集中が可能になり、どのような自社の強みを磨けばよいのか、ということがわかるのです。」
 そして「巷の戦略論が見落としている五つの視点」には、次のものがあるそうです。
1)「軍事戦略」を知らずに「戦略」は語れない
2)有事でも確実に戦略を実行する方法論がない
3)地政学・地経学的リスクへの感度が低い
4)日本人の「集合的無意識」を自覚していない
5)「戦力回復」で生産性を上げる視点がない
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 この本では、企業の経営をする上でも参考になることを数多く見つけることが出来ましたが、実は、「経営戦略の考え方自体が、そもそもは軍事戦略の考え方を応用して発展してきた。」のだそうです。
「第4章 「きれいな戦略」だけでは、人も組織も動かない」も、とても参考になりました。
「軍事戦略・作戦を立てるときに自衛隊がまず行うのは、現状認識のための「情勢見積もり」です。この情勢見積もりの目的は「相手を知る」ことですが、具体的には相手の「能力」と「意思」を見極めることが必要になります。さらにそこでは「相手の立場になって考える」ことが肝要です。」
 この「相手の立場になって考える」ことは、実は容易ではないそうです。例えば、日本人には「集合的無意識」として、「日本人のすべての行動やコミュニケーションには、「相手に気を使って優しく接することで、周囲の人に好意をもってもらいたいという他者依存」のバイアスがかかっている」のに、それに気づいていない人が多いのだとか。……うーん、確かにそうかも……。交通や通信の発達のおかげで、市場が世界に広がっている今、環境や慣習がまったく異なる人びととコミュニケーションをとる必要性は高まっていくのでしょう。そういう場合、相手の「集合的無意識」が、自分とは違うことを意識する必要があることを痛感させられました。
 また「リーダーに大切なこと」の5つの項目にも、納得させられました。
1)リーダーの使命感と情熱が部下との信頼関係を築く
2)達成すべき任務の重要性・意義を認識させる
3)話を聞いてやる
4)現場のことは現場に任せる。そして権限を与える
5)指導は「性善説」で行う
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 さらに「第7章 「休む」ことで戦略の成功確率は上げられる」では、睡眠や回復とともに、日頃から身体を鍛えることの重要性を強調してくれていて、とても共感しました。個人的には、レベルの高い仕事をするためには、十分な睡眠(休息)とそれを支える体力と知力(日頃の努力で鍛錬&習得する)が必要だと以前から思っていたのですが、このような「経営戦略」の本に、きちんとそれが記述してあることは少なかったような気がします。この本には、次のような記述がありました。
「社員一人ひとりが十分な睡眠時間を確保し、適切なタイミングで休日・休息をとれるように配慮することは、組織として最大限のパフォーマンスを発揮するための環境整備の一環ともいえるでしょう。睡眠は、じつは仕事そのものなのです。」
 そうですよね! 「戦うために、しっかり休息」しましょう!
 この他にも、「キューバ危機」でのジョン・F・ケネディ大統領の意思決定プロセスや会議運営方法など、実践的に参考になる情報をたくさん知ることが出来ました。全体としては、特に新奇な情報があったわけではありませんが、とても現実的・合理的な組織運営の方法を教えてもらえたと思います。ぜひ読んでみてください。
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