『人と企業はどこで間違えるのか?—成功と失敗の本質を探る「10の物語」』2014/12/19
ジョン・ブルックス (著), 須川 綾子 (著)

 フォード、GE、ゼロックスといった著名企業の経営者たちや、ウォール街のブローカーたちが、人生やビジネスにおいて「どこで間違えたのか(あるいは間違えなかったのか)」を明らかにしているビジネス書です。
 2014年夏、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツさんは、自身のブログで『Business Adventures』という1冊の本を紹介しました。20年以上前にウォーレン・バフェットさんから推薦されたもので、以来「最高のビジネス書」として愛読し続けているそうです。それがこの本の元になっているエッセイ集で、「訳者あとがき」には、次のように書いてありました。
「原書は『ニューヨーカー』誌に掲載されたエッセイを編纂した一二の物語から構成されているが、アメリカ連邦税法、および金本位制をテーマとした二つの章を割愛し、「一〇の物語」としたことをお断りしておく」
 その10の物語は次の通りです。
第1章 伝説的な失敗──フォード社エドセルの物語
第2章 公正さの基準──テキサス・ガルフ・サルファー社インサイダー事件
第3章 ゼロックス、ゼロックス、ゼロックス、ゼロックス
第4章 もう一つの大事件──ケネディの死の裏側で
第5章 コミュニケーション不全──GEの哲学者たち
第6章 最後の買占め──メンフィスの英雄、かく戦えり
第7章 二つめの人生──ある理想的なビジネスマンの記録
第8章 道化の効能──いくつかの株主総会にて
第9章 束の間の大暴落──永遠のホセ・デ・ラ・ヴェガ
第10章 営業秘密の変遷――ダンス、クッキー、宇宙服
   *
 有名な物語ばかりなので、内容を知っている方も多いのではないかと思いますが、この本には、その時の経緯がまるで小説のように生き生きと描かれているので、登場人物の当時の苦しい心情を身近なものとして受け止められます。「訳者あとがき」にあった訳者の方の感想が、この本の良いところを上手に表現しているので、ここで紹介させていただきます。
「本書の素晴らしい点は、半世紀近くたったいま読んでも、単に歴史的事実の記録にとどまらず、それぞれの出来事の裏側にある人間的な側面が鮮やかに伝わってくることにある。著者は丁寧に取材を重ね、成功と失敗の物語に隠された苦悩や葛藤に斬り込み、また一方で、有能であるはずの各界のリーダーたちがどうして道を誤ったのか多くの示唆を与えてくれる。」
 個人的に、この本を読んで良かったと思えたのは、「失敗」に関係した人々が、「その後」もしたたかに生きていたことを知ることができたこと。「伝説」と言われるほどの大失敗をやらかしたとはいえ、もともとは有能な方たち、転んでも起き上がることが出来るんだなーと勇気づけられました(笑)。
 例えば、「伝説の大失敗」のフォード社エドセルの物語で、この挫折した偉大なチームを率いたクラッフィさんは、エドセルの元幹部たちがその後かなり幸せそうでいることを聞いて、次のように語っています。
「(前略)その後みんなが元気にやっているのは驚くことじゃない。事業というのはときどき壁にぶつかるが、気持ちまでだめになってしまわなければ立ち直れる。私はゲイル・ワーノックとか、あのときの仲間とときどき集まって、昔の愉快な出来事や不運な出来事について語り合うのが楽しくて仕方がない」
……「どのように失敗してしまったのか」を知るだけでなく、「失敗しても立ち直れる」という勇気ももらえた本でした。かなり古いエピソードばかりですが、今でも教訓にできることがたくさんあります。読んでみてください。
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