『よくわかる生体認証』2019/4/24
日本自動認識システム協会 (編集)

 生体認証(バイオメトリクス)に関する基礎知識、応用事例、プライバシーの問題などを分かりやすく解説してくれる本で、2005年発行『よくわかるバイオメトリクスの基礎』の改題・改訂版です。
 生体認証(バイオメトリクス)の一般的な定義は、「行動的あるいは身体的な特徴を用い個人を自動的に同定する技術」で、最近はスマホやパソコンなどでも使われている指紋認証、顔認証などが生体認証の応用例です。
 最もよく利用されていると思われる「指紋」は、なんと紀元前6000年頃から使われてきたのだとか! この本には次のような記述がありました。
「(前略)指紋は古くから個人同定の手段として用いられてきた。世の中に同一指紋を持つ人間が存在する可能性は870億分の1だという。例えば、紀元前6000年頃から中国や古代アッシリアでは、古くから指紋を使って個人認証を実施してきた。また、日本でも昔から拇印の習慣がある。」
 そんな古代から、「個人認証」は必要とされてきたんですね……。
 そして「身体計測的なバイオメトリクス」としては、指紋、顔、虹彩、血管パターン、耳介、汗腺、匂い、DNAなどがあり、「行動計測的なバイオメトリクス」としては、声紋、署名、キーストローク、手指動作、歩容などがあるそうです。……人気TVドラマ『科捜研の女』で、おなじみのものが多いですね(笑)。「虹彩」による認証は外国映画でよく見ましたが、「歩容(歩き方)」が犯罪捜査に役立つことは、『科捜研の女』で初めて知りました。
 でも個人的には、生体認証(バイオメトリクス)を使うことには、あまり積極的ではありません。この本にも次のように書いてあるように、プライバシー問題が気になるからです。
「バイオメトリックデータに関するプライバシー問題」
1)取替えのきかない情報である(盗まれても代わりを生成できない)。
2)本人の同意なく収拾が可能なものが多い
3)データから本人を特定できる
4)本人の副次的情報が抽出できる(皮膚の色から人種が把握できるなど)
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 なかでも気になるのは、「取替えのきかない情報である」こと! 万が一、指紋情報が盗まれたことが分かったとしても、指紋の方を変えるわけにはいかないからです。
 このようなデリケートな問題に対処するため、「キャンセラブルバイオメトリクス」という技術が考案されているそうですが、それが厳格に適用されていることを、どうやって確認したらいいのでしょう? そう思うと現時点では、「どうしても必要ない限りは使わない」ことにしたいと思っています。(なお「キャンセラブルバイオメトリクス」とは、「データ入力時に一方向性関数でデータを変換し、システム内では変換されたデータを用いるという技術」で、「システムに保管されたデータの盗難があっても、他のシステムでは使えなくするための方法」だそうです。)
 また最近はカメラの機能が高性能化しているので、特に有名人の方などは、ネットなどで公開されている画像から、指紋や耳介の情報を取られてしまうのではないかということも気になります。(もちろん一般人でも同じ懸念があります)。
 でも「生体認証(バイオメトリクス)」はパスワードなどと違って、覚えておく必要がないという大きなメリットがあるので、慎重派の私でも、高齢化して認知症が心配になったら、きっと積極的に利用していくことになるのでしょう。
 おそらく今後は、「生体認証(バイオメトリクス)」は、どんどん普及していくものと思われます。「8章 応用事例」に多数の事例があるように、特に「顔認証」は一般の店舗でも、マーケティングや万引き防止などの面での活用が進むものと思われますし、行政サービスでも使われていくことでしょう。
 2001年の米国同時多発テロを契機にパスポートの偽造防止議論が加速したことで、現在では、日本国発行パスポートにも顔画像が記録されているそうです。次のような記述がありました。
「(前略)パスポートにコンタクトレスのインタフェースを備えるICチップを採用し、国際的に標準化された顔画像を相互運用可能な第一の生体情報として記録することなどが決議された。なお、同じく国際的に標準化された指紋画像あるいは虹彩画像を相互運用可能な第二の生体情報として追加的に記録することも決議されている。」
 今後、どんどん身近なものになってくる「生体認証(バイオメトリクス)」について、総合的に学べる本でした。興味のある方は読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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