『生物の「安定」と「不安定」 生命のダイミクスを探る』2016/12/21
浅島 誠 (著)
生き物が持つ「安定性」と、それを脅かす「不安定性」とは何か……発生生物学の基礎知識から研究の最前線までを、分かりやすく解説してくれる本です。
生き物の体の構造と機能は、4種の塩基の配列(DNAなど)によって決まっています。生きているかぎり体内ではこの仕組みに沿って物質が合成・分解され、個体の成長と維持、生活と次世代生産を可能にしているのです。この仕組みは強固ですが、複雑で、つねに不安定化しうる状況にあるのだとか。私たちの体内では、「安定」と「不安定」が絶妙なバランスを保っているようです。
例えば重大な病気として恐れられている「がん」ですが、がん遺伝子は私たちの体内で、重要な働きをしていることが分かってきました。
「ヒトの新生児は半年で体重を3倍にすることがある。この増大を支えているのが急激な細胞の増殖であり、それを実行している分子的な実体が、がん遺伝子なのである。」
「必要なときにはがん遺伝子が働いて細胞が増殖するが、その役割を終えると今度はがん抑制遺伝子が出てきて、がん遺伝子を眠らせるのである。」
「がん遺伝子という大変危険なものを抱え、一歩間違うと生命が脅かされてしまう反面、がん遺伝子がきちんと働いてくれるおかげで細胞が増殖し、私たちは全体として統一された個体になり、「恒常性」も保たれている。」
このような記述を読むと、生物にとって最も大事なのは、やはり「バランス」なのだなと思わされます。
そして個人的に興味津々だったのは、「第5章 老化と寿命を考える」。
ネズミを使った実験で、若い個体と老いた個体の血管を縫合して循環させたら、老いた方が若返ったという研究結果があるそうです(なお若い方には、その逆のことが起こったようですが……)。どうやら血液中には、他の組織の幹細胞を活性化する何らかの物質が含まれているようですが、そういう物質を作り出すことが出来れば、夢の若返り薬になるかもしれません。
そして「定期的な全身運動が体に良い」のは、体内の四つの系(血管系・リンパ系・骨格筋肉系・神経系)同士を活性化するからのようです。私としては、薬を使うよりは、「定期的な全身運動」で老化を防ぎたいと思います。その方が「健康な若さ」を長く維持できそう(笑)。
また「読書、音楽や美術の鑑賞、楽器の演奏、文章の作成」などが、認知機能の低下の抑制につながるという研究結果もあるようです。
やはり「定期的な全身運動」で身体を動かし、「読書や学習、芸術活動」で脳を働かせることは、楽しいだけでなく老化防止にも役立つのですね……今後も続けようっと☆
また、「善玉菌と悪玉菌という言葉もよく見かける。ヒトにとって有用な働きをしているものを善玉、害をなしているのを悪玉と見る呼び方である。それなら害をなすものを減らし、有用なものを増やせば個体がより健康になるかと言えば、どうやらそうではないらしい。悪玉菌の働きを抑えると、善玉菌の働きも弱まって、結果的に全体の機能が落ちてしまうのである。」という記述を読むと、もしかしたら「不安定」の存在が、「安定」の維持に役に立っているのかも(不安定を安定に戻そうという恒常的な努力が、体内バランスを保つためのシステム(?)を維持することに繋がっているのかも)と想像させられました。
基礎知識や最新知識を得られるだけでなく、いろんなことを考えさせてくれる本でした。すごく参考になると思うので、ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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