『銃・病原菌・鉄(上)1万3000年にわたる人類史の謎』2012/2/2
ジャレド・ダイアモンド (著), 倉骨彰 (翻訳)
『銃・病原菌・鉄(下)1万3000年にわたる人類史の謎』2012/2/2
ジャレド・ダイアモンド (著), 倉骨彰 (翻訳)

 世界の富や権力は、なぜ現在あるような形で分配されてしまったのか? なぜ人類は五つの大陸で異なる発展をとげたのか? 生理学や生物学に造詣の深いダイアモンドさんが人類史の壮大な謎を深く考察している本で、ピュリッツァー賞受賞作です。
 結論から言うと、本書の要約は、「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」というものです。
 未開の人にできないことが、都会の人には何故できるのか? と問われたとき、なんとなく「知力の差」と考えがちな気がしますが、ニューギニアでのフィールドワークの経験のあるダイアモンドさんは、未開の人にはその過酷な場で生き延びるための知力が、都会の人よりもずっと高いことを知っていたので、さらに深い原因を探り続けました。その結果が、この本となって結実したのだそうです。
 タイトルの『銃・病原菌・鉄』は、大航海時代の有名な史実「ピサロが皇帝アタワルパを捕虜」にすることが出来た理由から来ています。
「ピサロが皇帝アタワルパを捕虜に出来た要因こそ、まさにヨーロッパが新世界を植民地化できた直接の要因である。ピサロを成功に導いた直接の要因は、銃器・鉄製の武器、そして騎馬などにもとづく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、そして文字を持っていたことである。」
 そして、これらの要因を作る、さらに根本的な原因は、食糧生産の技術。食糧生産を効率的に行うことが、文化的余裕を生み、科学技術を発展させてきました。この点で、ユーラシア大陸(ヨーロッパから中国)は、最初から有利だったのだそうです。それは、たまたま家畜化しやすい大型獣が生息していて、栽培化しやすい麦などの植物が自生していたから。こうして食糧生産の効率を上げ、人口を増加させることが出来た人々は、やがてコミュニケーションのために文字を作り、紛争の仲裁のために社会組織を作り、農具や武器を生産し、科学技術を向上させていったのです。
 ……なるほど。
 そして「病原菌」というのは、相手を制圧するための武器としても大きな働きをしてきたようです。早くから野生動物を家畜化してきたユーラシア大陸の人々は、家畜から伝染病を移されることで、さまざまな病気への免疫を獲得してきていたので、病原菌の面でも有利だったのだとか! 個人的には「病原菌」をそのような視点で見たことがあまりなかったので、すごく新鮮に感じました。
「世界の富や権力は、なぜ現在あるような形で分配されてしまったのか?」に対する答えだけなら、「銃・病原菌・鉄」で正解のような気がしますが、ダイアモンドさんは、それにとどまらず、さらに「なぜ人類は五つの大陸で異なる発展をとげたのか?」という疑問のもとに、より根本的な理由を探りだしていきます……そのために調査された膨大な(長大な)歴史的事実の蓄積に、圧倒される本でした。もちろん、ここで紹介したのは、そのごくごく一部で、さまざまな歴史的要因が複雑に絡み合って、現在に至っていることが詳細に記述されています。
 この本は、歴史を学ぶことの楽しさと重要性を教えてくれました。根本的な原因を深く追究していく謎解きも楽しいですが、「歴史的事実を通して、大切なものは何かを見極める」ことの重要性も痛感させられました。
 すごく長くて読むのは大変でしたが、人類の歴史を勉強できるだけでなく、さまざまなことを考えさせられる本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
   *    *    *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>