『海とヒトの関係学 ②海の生物多様性を守るために』2019/2/19
秋道 智彌 (著), 角南 篤 (著)
海にあふれるプラスチックゴミ、拡大する外来生物、失われる海の多様性。現場に精通した研究者・行政・NPO関係者たちが、海で何がおこっているのか、これからどうすればいいのかを考察している本です。
最近、世界中で問題になっている、海洋に浮遊している大量のゴミのニュース映像を見るたびに、こんな惨状をこのままにしてはダメだと痛感しています。
そしてさらに気になっているのが、いわゆるマイクロプラスチック。すごく小さいプラスチックゴミがプランクトンに取り込まれ、それが食物連鎖で人間へと繋がってくるという生物濃縮汚染の問題です。もしかしたら天然の魚より、養殖の魚の方が「健康にいい」なんて日がやってくるのでしょうか? 困ったことですね。
この本は、海洋ゴミ問題や、地球温暖化・海洋汚染などの環境変化による生物多様性の変化に関するさまざまな問題を、多くの専門家の方々が解説・考察してくれます。でも一方的に断定的に、プラスチックゴミ、絶対ダメ! と言うのではなく、貧しい人々にとってはプラスチックの安価な製品は必要なものとした上で、プラスチックゴミを減らすことの重要性を教えてくれる、という感じに、かなり中立的な態度で、海洋ゴミなどの環境問題を冷静に考察している印象を受けました。
「食物連鎖系のなかで動物プランクトンは植物プランクトンを消費するが、この微小な粒子を取り込んだ動物プランクトンが小魚に食され、その小魚は大きな魚の餌となる。挙句の果てはマグロ、サメなどの高次の消費者や人間が食べることにつながる。マイクロプラスチックは消費者の体内で栄養分として消化吸収されるわけではない。こうして人為起源の汚染物がふたたび自然界での汚染を生態系全体に及ぼすことが危惧される。マイクロプラスチック本体だけでなく、その表面に付着したさまざまな金属物質も生物に取り込まれることになり、有害物質による生物濃縮の汚染が考えられている。」
「ポリエチレンなどプラスチックの素材そのものは、よほど大量に摂取すれば別だが、ほとんど化学的な毒性はもっていない。(中略)問題はプラスチックに含まれる添加物である。プラスチックに柔らかさや燃えにくさといった便利さを付加するために、その製造過程で、様々な有機物質が混合されている。それらの有機物質のなかには、われわれ人類を含め生物にとって有害なもの(環境ホルモンなど)がある。」
……プラスチックの毒性は強くない上に、栄養分として吸収されずに排出されるようなので、あまり神経質に心配する必要はないのかもしれませんが、プラスチックに含まれる添加物などが生物の体内に蓄積してくると、やっぱり怖いと思います。
また「第2章 生物多様性を守れ」では、東京湾で2000年以降、急激に拡大しているホンビノスガイの生息状況が紹介されていました。今では東京湾での重要な漁獲物となっているそうですが、実は、ホンビノスガイは汚い海底を好む生物なのだそうです! 外来種だそうですが、東京湾の比較的きれいな干潟では、ほとんど生息していないそうで……他の生物が住みにくい汚い海底で繁殖しているなら……もしかしたら歓迎すべき外来種なのかもしれないなーと考えさせられました。外来種というと、日本の固有種を駆逐してしまう困った生物というイメージがありますが、そもそも「いつから日本にいたら固有種になるのか?」という疑問もあります。現在の「固有種」だって、おそらく遠い昔には「外来種」だったものが多いはずなのでは……?
また「8 バラスト水が招く生物分布の拡散」では、船の安全な航行を行うための「船舶バラスト水」が、貨物を搭載する港で排出されることで発生する問題(外来生物や細菌の移送)について解説されていました。
このように、本書では、人間を起源とする様々な海洋問題が取り上げられています。私たち人間が原因で起こっている問題は、やはり私たち自身で対処・解決していくことで、美しい海洋環境を、未来へとつなげていきたいと感じました。
最近、マクドナルドやスターバックスがストローを廃止することを発表しましたが、私自身も、レジ袋を貰わないようにするとか、プラスチック包装はちゃんと分別してゴミ回収してもらうとか、自分に出来ることを着実に行っていきたいと思います。海洋環境に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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