『地図の科学 なぜ昔の人は地球が楕円だとわかった?航空写真だけで地図をつくれないワケは!?』2010/10/16
山岡 光治 (著)
学校で使う地図、カーナビの地図ソフトなど、私たちがとても便利に使っている地図がどのように作られているのかを、地図づくり一筋47年の元国土地理院中部地方測量部長の山岡さんが解説してくれる本です。
まずは日本の地図づくりの歴史から。現存する最古の日本地図は、東大寺正倉院に残されている、布に書かれた「近江国水沼村開墾図」など(751年)で、現存最古の日本全図は、仁和寺の行基図(1305年)なのだとか。……意外に新しい(?)なあと思ってしまいましたが……「きちんと残されたもの」があるのがその年代なだけで、イラストマップ的なものは、きっと、もっとずっと前からあったのでしょう。大勢の人間で古墳を作った時に、位置を示す図がなかったとは思えませんから……。
また、伊能忠敬をはじめ、昔の人たちがどのように地図を作ったのかに関する技術的な解説は、けっこう簡単な道具を使った方法なだけに、むしろ「地図づくりの基本」を学ぶのに役立つような気がします。昔の人も、「誤差がでない」ように大変な努力を重ねていたんですね! 凄いです。
そして現在、私たちが便利に使っているいろいろな地図。よく見ると本当にいろいろな情報が掲載されているんですよね! 道路の太さとか建物の形とか、植えられている樹木や作物の種類まで! もっともこれらすべてを「現地で調査」したわけではないようでしたが……それにしても、すごい努力の結晶だとあらためて感心・感謝の気持ちを抱かされました。
また、日本の測量の起点や、高さの基準がどこにあるのかも興味深かったです。ちなみに次の通りだそうです。
・測量の起点=日本経緯度原点(昔の東京天文台:港区麻布台2-2-1、東経139度44分28秒8759、北緯35度39分29秒1572)
・高さの基準=日本水準原点:憲政記念館前庭(千代田区永田町1-1)0目盛の高さ=24.424m。水準原点の0目盛の高さは、港区の「霊岸島」で求めた平均海面(東京湾平均海面)。
なお、どちらもまったく「きりのいい数字」ではありませんが、これらの「原点は、天文測量などを実施し、これからの測量実施に都合のいい場所を選定し、経度と緯度を高い精度で測量する」のだそうです。なるほど。
ここには、地図作りのために設置された「一等三角点の標石(25~45㎞の密度で全国に974点設置されている)」の写真も掲載されていました。うん、これ、見たことあります。その時には、周囲に何も表示がなかったので、これ、なんだろうな? 地図作りのためのもの? 何らかの境界を示すものっぽいけど……と思っただけでしたが、この本でようやく疑問が氷解しました。もっとも今では、GPS測量に代わっているようでしたが……(たぶん一等三角点の標石は、すでに使われていないのでしょう)。
この本には、著者の山岡さんも苦労して作ってきた「地図作りのノウハウ」がぎゅっと詰まっています。ただ……現在では、機械技術が進んでいるので、この時よりも地図作りはずっと容易になっているようです。
例えば、航空機に装着されたGPS/IMUという最新機材により、カメラの座標と傾きが簡単に計測できるようになったとか、航空レーザ測量技術を使えば、樹林があっても本当の地表の標高データを取得できるとか、さらに、音響測深機から指向性の高い超音波のビームを水面下に投下して、反射音が返ってくるまでの時間から、水深、つまり地形を測定することで、海底地形図まで作れるとか。
おそらく今後は、全国にIoT網を張り巡らすなどして、さらに精度やリアルタイム性を高めた地図が作られていくことでしょう。
地図作りについて、さまざまなことを教えてくれる本でした。地図に興味がある方は、読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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