『サイボーグ時代 ~リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略』2019/1/22
吉藤 オリィ (著)
分身ロボットOriHime(オリヒメ)、視線入力装置OriHime-eyeをはじめ、テクノロジーの力で人間の「できる」を拡張し続けている「ロボット界の若き鬼才」吉藤さんが、これからの生き方を語ってくれる本です。
『サイボーグ時代』というタイトルだったので、AIを駆使した最先端ロボット技術で、人間の身体機能を超人へ拡張する……という内容を期待してしまいました(汗)。確かにそういう一面もないわけではないのですが、どちらかというと、かなり幼稚な感じの「おもちゃ」的なロボットで、人間の「できない」を「できる」に変えてきたという話です。例えば、分身ロボットOriHimeは、片手で持てるサイズの上半身だけの遠隔操作ロボット。これを使うと脊髄を損傷した障害者でも、全国を講演して回るなどの「社会参加」が可能になるのです。
これらのロボットは、子どもの頃、「引きこもり」を体験した吉藤さんが、障害者や高齢者など何かが「できない」人が、テクノロジーの力で「できる」ようになることで、前向きに未来へ進むことが出来るようになることを願って開発したものだそうです。
この吉藤さん自身の「引きこもり」体験には、すごく共感を覚えましたので、以下に一部紹介させていただきます。
「少し私の話になるが、私は幼少期に3年半ほど不登校・引きこもりを体験し、「できなくなる」ことへの絶望感を体験した。引きこもりが長引き、天井を眺める時間だけが増えていった。人と会わないことで日本語もうまく話せなくなり、勉強や精神的成長の遅れを恥じて、より人と会えなくなる負の循環に陥る。勉強が苦手になり、人が苦手になり、笑えなくなり、健康な精神状態を維持できなくなる。日に日にできないことが増えていくことで、「そんなことで将来どうするんだ」と言われ、さらにできないことが増えている将来のことを考えさせられることは恐怖でしかなかった。」
「しかし、新たにできることを見つけ、それによって喜んでくれる人がきて、「自分だからできることがある」と自覚できるようになると、人は自分の存在意識を見出せるようになり、前向きに未来を想うことができるようになる。だから私は不可能を可能に変えるためのテクノロジー、ツールをつくり続けているのだ。」
「本書のタイトルは「サイボーグ時代」。テクノロジーを日常生活にうまく取り入れることで、いままでできなかったこと、これまでの「当たり前」を更新し続ける時代。今年できなかったことが、来年できるようになる時代を我々は歩いている。」
吉藤さんは引きこもりだったとき、介助してもらうばかりで「ありがとう」を言い過ぎて、「ありがとう」が言えなくなり「すみません」に変わっていく苦しみを味わったそうです。感謝ができない嫌なやつになって、自分がお荷物だという感覚を持ち、どんどん悪循環に陥っていく……「ありがとう」はお金と同じで、言い過ぎると負債になるという話は、とても重いものだと考えさせられました。
また、この本は、私自身の「常識」というか「固定観念」をも打ち破ってくれました。ベストセラーとなった『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』を読んで、人生100年をどう生きるかを考えてしまっていましたが、吉藤さんは17歳のときに「自分は30歳で死ぬ」と思って、「人生30年計画」を立てたそうです。
「30歳までしか生きられないとなると、17歳の時点で残された時間はたったの13年しかない。(中略)それまでに「孤独の解消」というミッションを達成するための手段を確立しようと思っていたのだから、ああだこうだ悩んだり、先延ばしにしたりしている時間はまったくなかったのである。私が必死にコミュニケーション方法を学んだり、高専や大学を中退する選択ができたり、寝る間も惜しんで研究開発にいそしんでいたりできたのは、自らの人生にリミットを定めていたことも大きい。まあ結果的に、2017年で私は無事に30歳を迎えたわけで、いまは「人生40年計画」にアップデートしている。」
……なるほど。そういう考え方も出来ますね! そして「人生100年計画」は厳しいようで、むしろ自分に大甘な計画(いかに消費を節約し、時間をどう潰すか)になりがちかも、と反省させられました。もっとも私が「人生30年計画(残り13年)」を立てたら、「孤独の解消」など考えず、残り13年をどのように「孤独でも楽しく」生きるかを考えそうですが……(汗)。
この本は、SFのような「サイボーグ時代」の本ではありませんでしたが、私にとっては、「新しい発想法」への道を拓いてくれるものでした。引きこもりの人や、障害者、高齢者などの社会的弱者の方には、「現実味のある力(勇気)」を与えてくれるのではないでしょうか。ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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