『積みすぎた箱舟 (福音館文庫 ノンフィクション) 』2006/9/15
ジェラルド・ダレル (著), セイバイン・バウアー (イラスト), & 1 その他

 22歳の若者ダレルさんが、相棒のジョンさんと2人で、西アフリカ、カメルーンの熱帯雨林に六か月の野生動物採集旅行に出かけたときのお話(記録)。後に、イギリスの自然保護論者の草分け的存在になるダレルさんの記念すべき処女作です。
 この旅行の動機は二つ。一つは、カメルーンの魅力的な動物や鳥や爬虫類を採集して生きたままイギリスに連れ帰りたかったこと、もう一つは、二人ともアフリカを見たいという夢を抱いていたこと。
 二人の青年は一緒に計画を立て旅費を工面して……ついにカメルーンに到着します。
 そして引き起されるのは、現地の人たちも巻き込んだ大騒動(笑)。動物愛いっぱいのダレルさんですが、森で動物を追えば、刺され、咬まれ、蹴られ、逃げられ……手つかずの大自然の中に、魅力的な動物たちの世界が生き生きと展開していきます。
 1947年の旅行記という、かなり昔の話なので、白人のダレルさんと現地の人々との関係や、野生動物を無理やり捕獲するとか、飼育途中で死ぬ個体もあるとか、現代では好ましくないと思われる記述もありますが、破天荒な若さにあふれていて、すごく面白いです☆
 夢見心地でカメルーンに上陸した若者二人は、税関で風変わりな荷物の説明を迫られて、たちまち現実に引き戻され、採集のために大荷物を載せて地方に向かうトラックは、そもそも来ない……上り坂で壊れる……などのトラブル続出! のっけから現地の人たちとのドタバタ騒動で笑わせてくれます(もちろん他人事だから笑えるのですが……汗)。
 これがダレルさんの処女作だそうですが、とにかく描写が活き活きしていて、まるで自分で体験したかのような気分になります。
 例えばチョウの描写では、「自然にできている道が広くなっているところでは、頭上の木の葉の層がこわれ、葉の切れ目から青空がのぞいている。ジャングルのおおいにできたこれらの穴から日光がさしこみ、木の葉を金色に染め、百本もの霧状の光線が地上にふりそそぎ、その光の霧の中をチョウが舞い飛んでいる。(中略)一つは窓辺に積もった冷たい雪のように繊細な純白の小さなチョウで、その飛び方を見るのがとても楽しい。不意の旋風に巻きこまれたアザミの冠毛のように突然空中に舞い上がり、それからミニチュアのバレエダンサーのように、くるくる回りながら地上に舞い降りるのだ」……その情景が目に浮かぶようです(ため息)。
 採取する野生動物は地元のハンターから買い上げるものもありますが、行動的なダレルさんは、ハンターたちとともに自ら森に突撃します。これがまた冒険につぐ冒険で、スリル感を満喫させてくれます。あまりの無鉄砲ぶりに、大丈夫なのか? と心配させられもします(汗)。もっとも、自分で採取に行くことで、より深く動物の生態を知ることが出来るのも確かですが……。
 そして後半は、採取の他に捕獲した大量の動物たちの世話! もちろん現地の多数の人々を雇用して世話させるのですが、いろんな騒動が起こって、実際はものすごく大変だったのだと思いますが……やっぱり笑えます。
 能天気に思えるほど無鉄砲なダレルさんは、帰国直前にマラリアに罹り(!)、それでも捕獲動物を船で連れ帰るために無理やり船に乗って帰国の船旅に出ます(これも、現在では考えられないようなことです。相棒や船員に感染する恐れもあるし、せっかく捕獲した動物が死んでしまうかもしれないのに……)。
 ところが途中で雨季の豪雨にあい、さらに大変な旅に……。
 ダレルさんたちは、なんとか動物たちを船に乗せましたが、へたすると大雨で集めた動物をすっかりなくしてしまう危険すらあったのです。
 二人は雨を眺めながら、ノアの箱舟のことを思います。
   *
「ノアか!」ジョンはうんざりして鼻をならした。「ノアが運んだという動物の五分の一だって、箱舟は沈んでしまっただろうよ」
「ぼくたちだってずいぶんいろんな種類の鳥や哺乳類を見たし、集めたよな! ノアがカメルーンで手に入れられるものだけを乗せたとしても、箱舟は積みすぎさ」
   *
 ……ということで、タイトルが『積みすぎた箱舟』に(笑)。
 自然描写も素晴らしく、ユーモアと冒険に溢れています。ぜひ一度、読んでみてください。
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