『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』2017/6/14
岡田 美智男 (著)

 自分ではゴミを拾えない「ゴミ箱ロボット」など、一人では何もできない「弱いロボット」を通して、「コミュニケーション」について深く考えさせられる本です。
 一応、「ロボット」に関する本なので、普通はITのジャンルで紹介すべきなのかもしれませんが、この本は「弱いロボット」の存在を通して、人間関係とはどういうものか? に関して深く問いかけてくるように感じたので、むしろ教育や哲学の本だろうと考え、教育(自己啓発)ジャンルで紹介させていただきます。
 さて、私には「ロボット=何かの役に立つもの」という固定観念があったので、この本に登場するロボットにはすごく困惑させられました。自分ではゴミを拾えない「ゴミ箱ロボット」。何気ない会話をする「む~」、一緒に手をつないで歩くだけの「マコのて」……うーん、発想は面白いんだけど、そういうロボットって、何になるの? と思わず感じてしまいます。もしも「役に立たないことに価値がある」ロボットだと教えられずに、これらのロボットを渡されたら、「どこかに故障があるロボットなんだろうな」と考えて、とりあえず邪魔だなと、電源を抜いて部屋の片隅に置き去りにしてしまいそう(笑)でも、そんな私って、つまんない奴なんだろうな、きっと……。
 この本に出てくる「ゴミ箱ロボット」は、自分でゴミを拾うのは下手ですが、その下手さ加減を見かねた周囲の人がゴミを入れてくれるようになるので、最終的には「ゴミを拾う」という目的を達することが出来るそうです(笑)。……そういうのって、目的を達したって言えるのかなー(苦笑)。
 何気ない会話をするロボット「む~」は、大きな一つ目のスライムのような形をしていて、「む~」と声を出します。それに「こんにちは!」と声を返すと、「む、む、む~」と声を出したり、顔を向けると、顔を向け返してくれるのだとか。
 うーん……どうなんだろうなー。こういうロボットって、たぶん大人が働いている会社のような場所だと、すぐに見向きもされなくなってしまうんだろうなー。なんか、これらの「弱いロボット」と私たち大人の載っている時間軸のスピードが、まるで違っているような感じがして……。
 でも、もしかしたら、これらの弱いロボットと同じ時間軸にいるのかもしれない幼児や高齢者には、「遊び相手」として役に立つのかも……はっ、いかんいかん、また「役に立つ」観点から物事を考えている……どうやら大人になる過程で、「効率化」思考にどっぷりつかってしまった私にとっては、「世界観の違い」をまざまざと突きつけてくるような、居心地の悪さを感じてしまうロボットたちなのでした。
 あまり役に立つようには思えない、これらの「弱いロボット」たちは、相手の「優しさ」や「工夫」を引き出してくれるようです。この本の中の次の記述には、すっかり考えさせられてしまいました。
「例のお掃除ロボットがもっと完璧にお掃除するものであったらどうだろう。(中略)きっちりと仕事をこなしてくれる。そのことでわたしたちの手間もだいぶ省けることだろう。ただどうだろう、それでおしまいということにはならないようなのだ。
 すかさず「もっと静かにできないの?」「もっと早く終わらないのかなぁ」「この取りこぼしはどうなの?」と、その働きに対する要求をエスカレートさせてしまう。そうした要求に応えるべく、技術者も新たな機能の開発に勤しむことに。ロボットの高機能さは、わたしたちの優しさや工夫を引き出すのではなく、むしろ傲慢さのようなものを引き出してしまうようなのだ。」
 ……確かに。私たちはつい、ロボットならば「高性能化を進めて当然」と思いがちですが、そういう考え方は、無意識のうちに社会全体に及んでしまっているのかも。だから現代を生きている私たちは、ロボットだけでなく人間にも「より効率的に」「より正しく(間違いなく)」働くことを求めてしまうのかも……。それが私たちの社会を、どんどん「弱者の生きにくいもの」に変えていっているのでしょうか……。
 いろいろな「弱いロボット」を通して、「相手との関係性」について深く考えさせられる本でした。あなたは何を思うでしょうか? ぜひ読んでみて下さい☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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