『図解よくわかる 屋内測位と位置情報』2018/12/20
西尾 信彦 (著)

衛星測位の使えない「屋内の位置情報」を得るために必要な技術と仕組みに関する総合的な解説書です。内容は以下の通りです。
第1章 屋内測位の基本
第2章 PDR測位手法
第3章 Wi‐Fi測位手法
第4章 BLE測位手法
第5章 新しいセンサー・デバイスの活用
第6章 ハイブリッドとシームレス
第7章 屋内地図と歩行空間ネットワーク
第8章 屋内測位と位置情報の活用
第9章 屋内測位の新しい可能性

スマホで当たり前にWi-Fiを使っているので、「屋内測位」が困難だとは思っていなかったのですが、実は、衛星測位ができない屋内や地下は、ナビゲーションの「秘境」なのだそうです! 現在(2019年初)でも、屋内測位の技術には決定版がなく、いろんな技術が試行錯誤されている状態なのだとか。本書には次のような記述がありました。
「残念ながら屋内測位は衛星測位とは違い、一つの技術で完結しているわけでも、決定版の技術が確立しているわけではありません。いままさに日々新しい技術が展開され互いにしのぎを削っている中で、誰かがそれを概観して整理する必要があります。本書はまさにその役割を果たすものだと自負しています。」
……そうだったんだ。
この本には「屋内測位」の様々な技術が簡潔に紹介されているのですが、こんないろんな技術を使わずに一つに統一した方がいいんじゃないの? その方が分かりやすいし、大量生産すれば機器も安くなるのに……と思ってしまいましたが(汗)、実は「屋内測位」は、まだ始まったばかりの技術だったんですね。
それでも、2020年の東京オリンピックに向けて、東京の地下街の道案内などに「屋内測位」の技術が活用されていくのは間違いないと思います。だから、この分野の技術は、今後ますます必要とされることでしょう。
実は、地下街の道案内は、現在の屋内測位の技術がない時代から行われていたそうです。
「地下街のナビゲーションは屋内測位がない時代からあります。大阪駅・梅田駅周辺地下街は日本でも有数の大規模地下街で、2つのJR駅、2つの私鉄ターミナル駅、3つの地下鉄が集っており、1日に200万人以上の利用者が往来するエリアです。「うめちかナビ」は2010年から携帯電話とウェブサイトによるバリアフリーナビゲーションのサービスを開始しました。当時のフィーチャーフォンのセンサーで屋内測位には無理があったので、地下街各所に200箇所ほど場所を示すQRコードをつけたステッカーを貼付し、カメラでそれを読みとらせたり、場所コードの手入力で位置入力をしてナビゲーションを実現しました。複数の施設管理者が連携してこれだけ大規模な地下街ナビゲーションを実現した最初の例だといえます。「うめちかナビ」は2016年7月からAndroidとiOSのバリアフリーナビゲーションのネイティブアプリとしてリスタートしています。」
なるほど……あの梅田ダンジョンでは、そんな努力がなされていたのか……。
個人的には、「自分が地下街をどう歩き回っているか」のすべてを補足する(される)ような「屋内測位」までは必要ないんじゃないかな、と思います。というより、それは気持ち悪いとすら感じてしまいます。
むしろ、どこかに目印のついた「案内ポイント」のような場所があって、そこに行ってスマホを操作すると、案内マップが出る(その周辺の地図をダウンロード出来る)という程度の、簡易なナビゲーション(?)の方が嬉しいような気も。これならWi-Fiやビーコンなどで、比較的簡単に実現可能だとも思いますし……。
おそらく最も望ましいのは、障害者やお年寄り、外国人などには手厚い屋内ナビゲーションを、それ以外の人々には、案内ポイントで、その人から要求された情報だけを提供する情報発信を、というように、相手のニーズに合わせた「屋内測位」や「屋内情報提供」を行うことではないでしょうか。
この本は、屋内測位の基礎、歴史から始まって、携帯端末のセンサーを活用するPDRや、Wi-Fi測位、BLEビーコンタグによる測位など、多数の測位手法を簡潔に紹介してくれた後、それらをハイブリッドしてシームレスに測位可能にするための手法や、最新の技術動向などを、総合的に解説してくれます……が、これはあくまでも発行時点(2018年末)での総合解説に過ぎず、今後、どんどん変わっていくのでしょう。
それでも現時点では、この分野の本は少ないので、通信、とくに「屋内測位」に興味のある方にとっては、便利な解説書として使えるのではないでしょうか。読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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