『インフォメーション―情報技術の人類史』2013/1/1
ジェイムズ グリック (著), James Gleick (原著), 楡井 浩一 (翻訳)
トーキング・ドラムからコンピュータまで、「情報(インフォメーション)」を操るあらゆる試みを見つめ直し、世界の本質を問い直す……壮大なスケールで描かれた「情報」に関する新しい文明史です。英国王立協会ウィントン科学図書賞(2012年)、PEN/E・O・ウィルソン科学文芸賞(2012年)を受賞しています。
「インフォメーション」という単語を聞くと、瞬時にITやコンピュータを思い浮かべてしまうので、この本もコンピュータやネット関連の話なのだろうと思いきや……本当の意味での「情報(インフォメーション)」に関する壮大な歴史的経緯をなぞる本なのでした。
近代まで、通信の量と速さと距離にかけては、世界中の誰も、文字を持たないアフリカ人の叩く太鼓(トーキング・ドラム)を凌ぐことは出来なかったのだそうです。この太鼓のメッセージは、村から村へと引き継がれ、一時間もしないうちに百マイル以上も遠くへ届いたのだとか。
そして今、私たちは特に不思議とも思わずにスマホで映画を楽しんでいます。でも、この映画などの動画は、映像も音楽も大量のデータ(情報)を必要とするもの。それを歩きながらでも快適に視聴できるようになるとは……本当に魔法のようです。
こんなことが可能になったのは、クロード・シャノンさんが1948年に書いた『通信の数学的な一理論』という小論文を書いてくれたからなのだそうです。この小論文でシャノンさんは、情報の単位としての新語「ビット」を生み出したのでした。こうして「情報」は数学的な量として明確に定義され、ビットという単位で演算が可能になったのです。そしてビットは、文章、音楽、美術、演劇その他、人間の営みすべてに偏在するものとなっていきます。
……ああ、そうだったんだ! と、なんだか衝撃を受けてしまいました。
私がかつてコンピュータの勉強を始めた時、当然のようにすでに「ビット」は存在し、同時に教えられたのが「ブールの論理代数」とか、AND・OR・NOT回路とかで、すべての数及び文字は、1と0だけで表現できる……というようなことが教科書に書いてあり、なんだかよく分からないまま、これらのことを「1+1=2」のような自明なこととして、「ふーん、そんなものか」と受け流していました。
でも……「情報」を「1」と「0」で表現するというのは全然「当然のこと」ではなく、1948年に初めて登場した考え方だったんですね! そこから始まって……2019年の今は、こんな状態まで到達しているなんて……「インフォメーション」の凄まじい進化っぷりにあらためて驚かされました(汗)。
シャノンさんは中継器の観念を系統立てて研究しようと考えていた時、ブールの「論理代数」がスイッチング回路の記述に使えそうだと思いついたそうです。
「回路と論理代数を結びつけるのは、常識を超えた発想だった。電気の世界と論理の世界は、なじまないように見えた。しかし、シャノンが気づいたように、中継器がある回路から次の回路へと送り出すのは、実際には電気というよりも事実だった。すなわち、その回路が開いているか閉じているかという事実だ。もし回路が開いているなら、中継器が次の回路を開かせる。」
「ブールと同様、シャノンは自分の方程式にわずかふたつの数しか必要がないことを示した。0と1だ。0は閉回路を、1は開回路を表す。「入」か「切」、「是」か「非」、「真」か「偽」。シャノンは結論に向かって突き進んだ。手始めに単純な例を取り上げる。ふたつのスイッチを持つ直列もしくは並列の回路だ。直列回路が論理結合子のANDに対応するのに対し、並列回路にはORの作用がある。」
「「中継回路を用いて、複雑な数学的操作を行うことは可能である」とシャノンは書く。「それどころか、”IF”、”OR”、”AND” その他で完全に記述しうる有限の工程の操作なら、どんなものでも中継器で自動的になされる」」
……私がかつてコンピュータの基礎として学んだ「ビット」は、このような経緯で生まれたことを知り、なんだかすごく感動してしまいました。
こうして演算可能になった「情報」は、コンピュータや通信技術の進歩をどんどん加速させていき……あっという間に、現状にまで至ってしまったようです(「ビット」がなかった時代の「情報通信」の速度に比べたら、本当に「あっという間」としか言いようがありません)。
その他にも、エントロピーとか、情報量とか情報圧縮とか、さらにはDNAとかミームなど、情報にまつわる膨大な歴史(情報)が詰め込まれた壮大な文化史が、本の中で展開していきます。なんと528ページもある長大な本で、読むのはとても大変でしたが(汗)、すごく読み応えがありました。「情報」に関心のある方はぜひ読んでみてください。
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