『ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』2018/10/19
アンドリュー“バニー”ファン (著), 山形 浩生 (監修), 高須 正和 (翻訳)

これまでの常識を破壊し、自らの手で新しいものを生み出していくための考え方や仕組みを、世界的なハードウェアハッキングの第一人者のファンさんが、実体験とともに詳しく解説してくれる本です。内容の概要は次の通りです。
第1部 量産という冒険
(中国・深センの製造業の紹介と、ArduinoとUSBメモリの工場見学、工場に発注するためのHowTo)
第2部 違った考え:中国の知的財産について
(中国の知的財産の仕組みと、それによるイノベーション)
第3部 オープンソースハードウェアと僕
(自らが実際にハードウェア製品を量産&クラウドファンディングした際の苦労話(ハックしやすいデバイスchumby、自分のためのラップトップNovena、サーキットステッカーChibitronics))
第4部 ハッカーという視点
(マイコン、SDカードコントローラーのなどのハードウェアハッキング、ゲノムのハッキング)

実を言うと、『ハードウェアハッカー』というタイトルを見て、ハードウェアハッカーって何だ? なんか凄そうだけど、案外たいしたことない大言壮語な内容なんだろう……などという不遜な気持ちで読み始めたのですが(汗)……「第1部 量産という冒険」の、カオスなアジアの町工場群という感じの中国・深センの製造業で働く人々の熱気あふれるレポートに、まず度肝を抜かれました。中国の小さな製造工場というと、ニセモノや不良品が横行するイメージがありましたが……そんな偏見はぶっとばされました(申し訳ありません)。どうやら物凄い学習スピード&技術力があるようです。ずっと昔の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」時代の日本のよう……中国、恐るべし(なお、深センはこれ以降も急激に変貌しているようで、今ではさらに洗練されているようです)。
続いてイタリアの工場でのArduinoの製造過程の紹介(写真付)。へえー、Arduinoって、こうやって作られるんだ! さらにUSBメモリの製造過程の紹介(写真付)。これら電子製品の製造過程の実況紹介には、すごくわくわくさせられました。
それから「工場に発注するためのHowTo」や「第3部 オープンソースハードウェアと僕」は、ファンさん自身の経験を通して培ったHowToや苦労話なので、すごく参考になりました。
工作好きの私としては、ここまででも十分に満足できるほど充実した内容でしたが、「第4部 ハッカーという視点」には、完全にノックアウトされました(笑)。
まさしく、『ハードウェアハッカー』だったのです!
第4部では、なんと、マイコンや、SDカードコントローラーのチップのカバーを取って「開封」してしまいます。(硫酸や硝酸でチップのカバーを溶かしたような記述もありましたが、マイコンのICのカバーの場合は、「故障解析ラボ」に送って手数料約50ドルで開封してもらっています。)
……凄い、凄すぎる……。確かに「ハードウェア」は、製品そのものが設計図でもあるので、中身を見ようと思えばパネルを開けて回路(部品や配線)を見ることが出来るものですが、電気製品に多数のICチップが搭載されるようになってからは、ICチップ部分は文字通りの「ブラックボックス(=不可侵)」になってしまった感があって、そこまで開けて見ようとは、考えもしませんでした……。
この本では、なんと「SDカードのマイクロコントローラをリバースエンジニアリングする」なんてこともしていて……あんなに小さなSDカードにすら、やろうと思えば、差し込んだコンピュータに侵入するための怪しい機能だって搭載できるんだなー(セキュリティ的に考えて、恐ろしいものだ)と、あらためて痛感させられました。
「監訳者解説」で山形さんが書いているように、まさしく「ハッカーは、さまざまなものを独創的なやり方でいじり、その仕組みや性質を理解しようとする人々のことだ。そのいじり方は、マニュアル通りではない。」んですね!
凄腕ハードウェアハッカーのファンさんが、自らの経験を通して培った知識を惜しみなく具体的に分かりやすく紹介してくれるので、製造業にかかわる人や技術者にとっては、参考になる記述が満載です。とりわけ私と同じように、パソコンの自作ブームの時にパソコンを自作したような工作好きの方にとっては、大興奮の内容ではないでしょうか。いい意味で凄くヤバい本です(笑)。ぜひ読んでみて下さい。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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