『気象予報と防災―予報官の道』2018/12/19
永澤 義嗣 (著)
予報官として長年気象庁で仕事をしてきた永澤さんが、天気のしくみや天気予報発展の歴史、気象庁の業務の紹介、予報官になる方法、さらに警報や防災への使命について語ってくれる本です。
前半は、天気のしくみの解説から始まります。
「天気を支配する気象現象のエネルギー源は太陽である。地球が太陽から受け取るエネルギー量は緯度によって差があり、季節によっても異なる。このため地球上では、エネルギー分布にアンバランスが生じている。このアンバランスを解消するために起きる現象こそ「気象」にほかならない。」
……なるほど。複雑に見える「気象現象」ですが、その根本は「太陽エネルギー」と「アンバランス」にあったんですね。
そして「第5章 予報官の実像」では、夜明け前が最も忙しいという、予報官の仕事の実際や、予報官になるための方法が紹介されます。
「普通の人々が寝静まる午前1時、予報官は仮眠室から現業室(予報作業室)に戻る。(中略)これから早朝5時に天気予報を発表するまでの数時間が、肉体的にも精神的にも負荷の多い仕事を少人数の夜勤者だけで遂行しなければならない濃密な時間帯である。」
「予報官は気象庁の専門職のひとつで、気象などの解析並びに予報および警報を担当する。その人数は全国で800人足らず(主任予報官や統括予報官を含む)にすぎない。」
「確実に気象庁に入る方法として、一般大学ではなく気象大学校を卒業するという道がある。気象大学校は気象庁の施設等機関の一つで、千葉県柏市にある。」などなど。
さらに「第6章 用語とのつきあい」では、「上空の寒気」「冬型の気圧配置」など注意を要する気象用語の解説の細かさに、「分かりやすくて正確な気象情報を伝えたい」という永澤さんの熱意が感じられました。
そして最終章「第8章 防災に軸足を移す」では、気象情報をもっと防災に生かすための提言がありました。
「予報官は、気象状況の過去から未来に続く推移のなかで現在がどういう位置にあるのかを常に認識していなければならない。そして、災害の危険性をいち早く察知し、いま危険性がどの段階にあるのか、今後どうなるのかの情報を社会に能動的にインプットし、適切な対応を促していく役割を担っている。予報官に期待されるところは多く、予報官の責任は大きいといわなければならない。」
この本を読んで、予報官の仕事の大変さ、重要性に、あらためて感謝の気持ちを抱きました。
ところで、今後、気象情報の分析や予報には、IoTやAIなどのIT技術がどんどん活用されていくことになると思います。ビッグデータ解析&予測はAIの得意とする分野なので、日常の「気象予報」はAIが予測することになるかもしれません。AIではなくコンピュータに関してですが、永澤さんも次のように言っています。
「社会が高度化し、気象予報に対するニーズも高度化・多様化してくると、どんなに有能な予報官が最大限の努力をしても、これらのニーズにすべて応えていくことは不可能だ。コンピュータの性能を生かせる部分はコンピュータに任せ、予報官はコンピュータが不得手な部分やコンピュータに任せられない部分に集中的に関与することにより、トータルとして最大効果を得ることができるはずである。」
今後、予報官をめざす方は、気象に関する知識だけでなく、IoTやAIの知識も必要になることでしょう。そして日常の気象予測はAIが行い、「数十年に1度か2度」のとびきりイレギュラーな状況を、気象のプロとしての人間の予報官が分析&予報することになるのではないでしょうか。そういう意味でも、予報官の仕事は、「気象予測」よりも「防災」の方に軸足が移っていくのかもしれません。
気象に関する知識を学べるだけでなく、予報官の仕事の実際も知ることが出来る本でした。気象が好きな方、予報官になりたいと考えている方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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