『概説サイバー犯罪―法令解説と捜査・公判の実際』2018/7/1
河村 博 (編集), 上冨 敏伸 (編集), 島田 健一 (編集)

法令の立案担当者、経験豊富な検察官らによる法律・実務の総合的専門書です。内容は以下の通りです。
第1編 実体法
(不正指令電磁的記録に関する罪、電磁的記録不正作出及び供用の罪 他)
第2編 手続法並びに令状請求、捜査書類
(捜索・差押え、電気通信回線で接続している記録媒体からの複写―いわゆるリモートアクセス 他)
第3編 捜査実務
(サイバー犯罪捜査・総論、サイバー犯罪捜査・各論)
第4編 公判実務
(概説、公判準備 他)

サイバー犯罪関連の法律に関する解説や、捜査・公判実務に関する解説が主な内容で、一般向けの本というよりは、法曹関係者や実務家、研究者、ロースクール生などの専門家向けの本です。
サイバー犯罪の特徴としては、次のようなものがあげられます。
1)電磁的情報の性質に起因する特徴(不可視性・不可読性、無痕跡性)
2)ネットワーク化に起因する特徴(匿名性、即時性、広域性・伝播性・模倣性、ボーダレス性)
3)技術性・専門性に起因する特徴(技術の難解性、法的知識を有する専門家の希少性)
サイバー犯罪の捜査には、コンピュータ等の技術的な知識が必要な上に、関連機器やソフト、さらに犯罪の手口までもがどんどん変わっていくのにも対応しなければならないという困難さがあって、とても大変だなーと感じました。
そして「第4編 公判実務」には、次のような記述がありました。
「事実認定を誤らないためには、まずは関係証拠をきちんと集め、それを適切に検討し、必要がある場合は徹底したデジタル・フォレンジックをすることである。罪名、法定刑から見ると重大犯罪には当たらない場合も少なくなく、そのために必要な捜査が行われていなかったり、証拠評価が適切にできていなかったりする場合があり得ることをサイバー犯罪では特に意識しなければならない。」
……確かに、サイバー犯罪は、重大犯罪にならないものも多いようなのに、捜査に要する知識や手順がとても面倒そうですよね(汗)。それでも、今後もどんどん増えることが予想できるだけでなく、金銭的な被害額も増加しそうな気がするので、それを食い止め、みんなが安心して便利にコンピュータやネットを利用できるように、サイバー犯罪の適切な刑事処分を積極的にすすめて欲しいと思います。
コンピュータやネットは、今後も社会のなかでその重要性・比率を増していくと思います。それにつれてサイバー犯罪も拡大・多様化していくと予想され、対応する法律なども新設・改正が頻繁に行われる必要があるでしょう。この本も、定期的に改訂版を出して欲しいなと思います。
4,400円+税と価格は少し高めですが、サイバー犯罪に関する法令解説、捜査・公判の実務について、総合的にまとめられた本なので、法曹関係者の方や法学部の学生さんは、ぜひ読んでみて下さい。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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