『モビリティ2.0 「スマホ化する自動車」の未来を読み解く』2018/9/22
深尾 三四郎 (著)

自動車産業が迎えている大きな変化と、それに対する中国や欧州、インド、米国などの海外の先進事例を具体的に紹介してくれる本です。
本書の副題「スマホ化する自動車の未来を読み解く」に関連して、深尾さんは次のように言っています。
「ガラケーと呼ばれた従来の携帯電話に取って代わり、大量のデータのやり取りを可能とするスマホが急速に普及した。これは、過去わずか10数年の間に起きたことである。スマホ時代の勝者は誰か。それは、デバイス(端末)のメーカーではなく、エコシステムを発展させたフェイスブックやツイッターなどのSNSのアプリケーション開発者、そしてそのアプリケーションを自由に取引きさせるためのOSを提供した米アップルやグーグルといった、いわゆるプラットフォーマーであった。自動車の動力源をエンジンからモーターに置き換える、「電動化」を推進する産業政策が世界的な潮流になり、世界で電気自動車(EV)の販売が加速し始めている現状は、(中略)スマホが急速に普及した時の状況によく似ている。」
さて現在、自動車産業で最も重要なキーワードは「CASE」なのだとか。CASEとは、C(デジタルでつがること)、A(自動運転)、S(共有・シェアリング)、E(電動化)の4つを指しているそうです。
「クルマはその寿命のうち95%は駐車時間である」と言われているそうですが、まさにその通りですね(汗)。未来社会で、多くの自動運転車が「放牧」されている状態になるなら、それを共有・シェアリングして、「自家用車」を持つ必要はなくなるのかもしれません。その方が、資源の無駄もなくなりますし、地球の温暖化の抑制にもつながるのかも……。
この本では、モビリティ2.0へ積極的に取り組んでいる海外の先進事例を数多く紹介しています。
自動運転に関しては、すでに中国や欧州、米国などで公道での実証実験が始まるに至っているようですが、世界で初めて公共交通機関として一般人を乗せた自律走行シャトルがテスト運行を始めたのは、スイス南部のシオンだそうです。2016年6月23日にスタートした「スマートシャトル」は2年以上もテスト運行されていて、長期間にわたって成功しているのだとか。スマートシャトルというのは、シオン旧市街の歩行者専用ゾーンと公道の全長2㎞を、仏ナヴィア社製造の最大収容人数12人の自律走行シャトル2台が、最高速度20キロで巡回するものだそうです。
また中国の積極的で精力的な取り組みには、正直、驚かされました。「第5章 中国 自動車「大」国から「強」国へ」では、中国の車載用電池最大手のCATLについて、次のように紹介されています。
「中国で2011に設立されたCATLは、創業わずか7年目の2017年に、最大手のパナソニックと二番手のBYDを一気に追い抜き、車載用リチウムイオン電池市場の世界トップに躍り出た。その急激な成長は、短期間でグローバル市場の覇権を掌握した、太陽電池モジュールで世界トップクラスのジンコソーラーやトリナソーラー、液晶パネル市場の世界最大手BOEを彷彿とさせる。それは、株式上場や政府支援で得た莫大な資金を元手に、まずは生産能力の急拡大で既存ライバルメーカーを一瞬にして「量」で凌駕する。そして豊富なマネーで、世界中からヘッドハンティングした精鋭エンジニアを抱える研究開発部隊が、モジュールやデバイスの「質」においても、短期間でライバルに追いつき、追い越していく歴史であった。」
うーん……中国、恐るべし。いまやさまざまな分野で、名実ともにアメリカと並び立つ二大国となっているのを、ひしひしと感じさせられましたが……そもそも中国は、古代から「世界一の国」の時代が長かったわけで……近代からなどの少しの間だけ、落ち込んでいただけなのだから、元に戻っただけとも言えますよね。
深尾さんは次のように言っています。
「今、日本に必要なことは、デジタル化を急速に進める中国のエネルギーを活用し、その中国の先進事例から多くを学びながら、広くアジアの視点で、未来をどう創っていくのかを議論することである。」
「自動運転」など自動車産業の大きな変化へのうねりは、世界中でどんどん進んでいるようです。先進事例の中国の動きに注目しつつ、日本も自律走行シャトルなどの実証実験を着実に進めていくべきなのでしょう。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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