『妄想炸裂』2003/11/7
三浦 しをん (著), 羽海野 チカ (イラスト)
東に西におもしろいマンガを、小説を探し続ける「さすらうマンガハンター・三浦しをん」さんの爆笑エッセイ集です☆
三浦さんのことは、『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、『舟を編む』で本屋大賞を受賞した実力派の小説家だと知っていたので、純文学系の作家なのだろうと思っていました。正直に言って、純文学系の小説は苦手です(汗)。中学生の頃、「新潮文庫の100冊」を読もうと思いたち、そのリストを頼りに、いろんな本を読んだのですが……さすがに中学生には難解な本が多くて、なんだか「大人の小説」が苦手になりました。その頃は星新一さんのSFにも夢中になっていたので、100冊を読み終える前に、SFや推理小説に走ってしまったのです。それ以来、純文学っぽい話は、国語の教科書にのっている本や、読書感想文のために読まなければならない本以外は、あまり読まなくなってしまいました(それでも小学生の時に、小学生向けに再構成された文学全集を読んでいたので、純文学系の本もすでにかなり読んではいたのですが……)。
純文学系の本が苦手なのは、主人公(作家自身の投影)が、その複雑な内心を露悪的に、赤裸々に吐露してくるところが多いからかもしれません。
ところで、この本はというと……なんと「自分の内心を赤裸々に吐露した話」ばっかりです(笑)。だから私の苦手な話ばっかりのはずなのですが、びっくりするほど面白い☆ すべてが「トホホ系の内心」だからでしょうか。まさに『妄想炸裂』。読んでいる私は「爆笑炸裂」でした。
例えば、三浦さんと、漫画友だちのあんちゃん(彼女は漫画ばかりを追い求めていいのかと悩んでいます)との会話は次のように描写されています。
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「ミウラさん! 私、終わっているでしょうか」
「何も言わないで。終わってたっていいじゃない。私ももう人間やめてからずいぶんたつけど、(漫画の)おかげさまで楽しく暮らしているわ……!」
「ミウラさん!」
「あんちゃん!」
涙を流しつつ、「まんだらけ」で愛と友情を確かめ合う私たち。人間をやめることはできても、女である自分を終わらせることができても、漫画を読むことだけは放棄できない。冷静になってみると、漫画を読むことをやめられないから、今こういう境遇になっているとも考えられるがな。まあいいや。
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……私も漫画が大好きで、いろいろ読んではいるのですが、このエッセイを読んで、世の中には、これほどの漫画&小説オタクがいるのだなーと深く感じ入り、こういう人からなら、私の読書オタクっぷりを、「にわか」と馬鹿にされても仕方ないか、という悟りの境地に達してしまったほどです。なにしろ、どうやら部屋が漫画や小説で埋め尽くされているようで、最近買ったはずの『リヴィエラを撃て』下巻が行方不明になってしまうほどなのですから。そして、その対処法がこちら(笑)。
「だって『リヴィエラを撃て』の下巻は、どうやってもすぐに見つけることは困難そうなんだもん。そうなると、当座の読み物が必要だ。家に帰って、ウォッカを飲みながら十一冊をじっくり読んだ。(後略)」
……本が見つけられない間は、他の本を買って読むことで当座をしのぐ……『リヴィエラを撃て』下巻は、さらに遠のいたようです(涙)。
爆笑間違いなしのエッセイ集ですが、BL系のネタも多いので、BLや腐女子が苦手な方は手を出さない方が無難です。なにしろケストナーの『飛ぶ教室』にまで、BL妄想を抱いているのですから(笑)。まあ、この小説の舞台は「ギムナジウム」なので、萩尾望都さん、武宮恵子さんの耽美な漫画で育った方には、そういう連想が働いてしまうのは不可抗力なのですが……そして、実は私もまた『飛ぶ教室』を読んだ時に、「ギムナジウム」と「正義先生と禁煙先生の関係」に、ちょっと不穏な思いを抱いてしまったのは内緒にしておこうっと……(もごもご)。
ほのぼのした日常のなか、留まることを知らない暴走し炸裂する妄想を描いた爆笑エッセイ集です。直木賞&本屋大賞作家の素晴らしい文章力で描かれたトホホ日常をご堪能ください☆
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