『生命の再設計は可能か: ゲノム編集が世界を激変させる』2018/8/1
John Parrington (原著), ジョン パリントン (著), 野島 博 (翻訳)

ゲノム編集の進展を中心に、遺伝子にまつわる研究の最近の動向をわかりやすく紹介してくれる本です。
1~3章で、ゲノム編集が出現するまでに人間が達成してきた遺伝子の改変にかかわる周辺技術について概観した上で、4章で、ゲノム編集(遺伝子ハサミ)について解説し、5~8章では、ゲノム編集の応用(農業や医療などでの最新の成果概説)を、9章では、ゲノム編集が導くかもしれない人工生命の誕生について、さらに最終章の10章では、その人工生命が跋扈する人類社会の未来像を紹介しています。
人類の未来を激変させる可能性のある「ゲノム編集」技術に関して、最新動向をまじえて総合的に解説してくれている上に、巻末には豊富な参考文献集も掲載されているので、「ゲノム編集」の参考書としても、とても役に立つと思います。
ゲノム編集だけでなく、「光遺伝学」に関する解説もあり、「光遺伝学」の活用で、脳の神経細胞の働きが少しずつ明らかになっているという研究状況も知ることが出来ました。光遺伝学は、神経の活動を操作することを可能にしたので、世界中の何千という研究室が、哺乳動物の脳の複雑な配線とともに、薬物中毒、うつ病、パーキンソン病、自閉症、痛みや発作などの精神的な異常の基礎をよりよく理解するために、現在では光遺伝学を使っているのだそうです。さらに、光遺伝学は、記憶が脳内にどうやって記号化されるかというしくみを理解するためにも使われてきているそうで、このような方法で、人間の脳内の仕組が解明されていき、認知症などの脳疾患の改善に役立ってくれるといいなと期待してしまいました。
さらに「ES細胞やiPS細胞などの幹細胞技術」と「ゲノム編集」の組み合わせは、間違いなく生物医学の研究に大きな影響を与えてくれそうです。これらの新技術は、難病の治療を進めるだけでなく、幹細胞技術で作り出した心臓などの器官で、老化した内蔵組織を修理・交換するなどの方法を使って、さらなる長寿命(不老不死)化を可能にするのかもしれません。
とはいっても「ゲノム編集」などの最新技術が、私たちの期待通りに明るい未来を実現するのか、それとも思いがけず地獄のような未来に向かわせてしまうのかは、未知数だとも思います。パリントンさんの言うように、「そのような技術をいかにして採用するかについての議論は科学者にのみ委ねられるべきでは決してなくて、積極的な大衆の参加が必要とされるというのがこの問題の重要な点である。」なのでしょう。今後も、これらの技術に注目していきたいと思います。
ゲノム編集、光遺伝学、幹細胞技術、合成生物学などの新技術を概観できて、すごく参考になる本でした。ぜひ読んでみてください☆
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