『ここまでわかった! 縄文人の植物利用 (歴博フォーラム)』2013/12/25
工藤 雄一郎 (編集), 国立歴史民俗博物館 (編集)

マメ類を栽培し、クリ林やウルシ林を育てる……狩猟採集生活をおくっていたとされる縄文人が、想像以上に植物の生育環境に積極的に働きかけ、貴重な資源を管理・利用していたことを紹介してくれる本で、国立歴史民俗博物館の歴博フォーラム「ここまでわかった! 縄文人の植物利用(2012年)」の記録をまとめたものです。
縄文時代の文化というと、野性的でカッコイイ縄文土器とか土偶とかの「土の文化」を想像しがちでしたが、ここで紹介されるのは、なんと漆を塗った木製品や編みカゴなど。というのも、この本のキーワードは「縄文人の植物利用」だからです。漆や朱を使った木製品が、縄文時代からあったことに驚かされました。
本書の内容(目次)は以下の通りです。
1 「人と植物の関わりの文化史」をもっと知ろう!
2 縄文人の植物利用―新しい研究法からみえてきたこと
3 縄文人は森をどのように利用したのか
4 マメを育てた縄文人
5 縄文人がウルシに出会ったのはいつ?
6 適材適所の縄文人―下宅部遺跡
7 下宅部遺跡の漆関係資料からわかること
8 縄文人と植物との関わり―花粉からわかったこと
9 イネと出会った縄文人―縄文時代から弥生時代へ

さて、縄文時代の「植物質の遺物」というのは、めったに見つからないものだそうです。土器や石器と違って微生物に分解されてしまうので、基本的には台地上の遺跡には残らないのだとか。それでも、1970年代後半から1980年代以降、大規模開発にともなって縄文時代の低湿地遺跡の発掘調査事例が急速に増加したおかげで、低地に水漬けの状態で保存された植物・動物などの有機物の遺物が腐らず残って、食料を加工した際に廃棄した種実の皮や、種子そのもの、弓や斧などのさまざまな木製品、織物や繊維などの遺物が発見された他、周辺の植物化石の自然の堆積物を調べることで、縄文時代の人びとが暮らしていた当時、その場所がどういった環境だったのかを知る手掛かりが得られたそうです。
この本は、それらの遺跡について、考古学、植物学、民俗学、年代学の第一線で活躍する研究者たちが研究した成果を、豊富な写真や図表、カラーイラストとともに紹介してくれます。ほぼすべてが「見開き1ページの解説(文章)+見開き1ページの写真やイラスト(フルカラー)」のセットで構成されているので、国立歴史民俗博物館の企画展示そのものを、本の形でじっくり読めるような感じです☆ 正直に言うと、博物館の展示というのはとても見応えはあるのですが、残念なことに、こちらの脳の容量をすぐにオーバーさせてくる感じがあって、途中からは「ただ眺めているだけ」になりがちなのですが(汗……私だけかもしれませんが)、こんな風に「書籍」という形で提供してくれると、本当にじっくり読めるので、とてもありがたいです。
花粉の量の比較によって「縄文人はクリを育てていた」とか、石斧で実際に切ってみることで、「クリは石斧による伐採という当時の技術に合った樹種」だったとかいう考察には、すごく説得力を感じました。
また、縄文時代の赤い漆製品には水銀朱が使われているものが多かったようですが、この赤い顔料は、北海道から関東などへ、もたらされたのではないかと推測されるそうです(水銀鉱山は北海道・紀伊半島・四国にある)。また「北海道の垣ノ島B遺跡の墓から出土した9000年前の漆製品は、日本で一番古い漆製品」だそうなので、北海道にも高度な縄文文化(漆文化)があったようです。この「漆文化」が成立するためには、生活の安定性が保証されていて文化活動をする余地があり、しかも各種の文化(土器・織物・木材加工など)がそれぞれ発達していることが前提となっているはずなので……日本の縄文時代というのは、本当に私の想像以上に文明的だったのだなーと驚かされました。
その他にも興味深い記事が満載です。博物館の企画展示そのもののような本で、すごく見応えがありました。歴史好きの方は、ぜひ読んでみてください☆