『図説 日本と世界の土木遺産』2017/10/25
五十畑弘 (著)
小樽運河や品川燈台、ドレスデン中央駅など、日本と世界の代表的な土木遺産260箇所の特徴や意義、見所を500枚超の写真とともに解説してくれる本です。
運河、ダム、港湾施設、橋やトンネル、歴史的街並みなど、生活を支える土木構造物には、過去の歴史が感じられる独特の美しさがあると思います。この本は、日本の土木遺産を中心に、世界の代表的な世界遺産についても、写真とともに解説してくれます。日本の土木遺産については、所在地の住所や、建設時期、構造、規模などの基礎データも記載されているので、歴史的な土木遺産の図鑑として役に立つ他、実際に現地を訪れる際のガイドブックとしても役立つと思います。
特に「第1章 運河、疏水」では、道路にするため埋めたてが検討された小樽運河の保存活動に関する説明(道路交通を確保しつつ運河は幅を半減して保存再生された)など、建設から保存にいたる経緯が詳しく解説されていて読み応えがありました。また、安積疎水事業では、猪苗代湖の水を利用してきた会津側の農地利水権益を侵すことなく、安積原野に水を引き入れるために十六橋水門が建設されたとか……巨大土木工事というのは、影響が広域なだけに、構造物そのものだけでなく、周辺の利害調整など、いろんな苦労があることを感じさせられました。
内容(目次)は以下の通りです。
第1章 運河、疏水
第2章 ダム、堰堤、河川構造物
第3章 ドック、港湾、防波堤
第4章 鉄道、駅、モノレール、LRT
第5章 コンクリート橋
第6章 石橋
第7章 鉄、鋼橋
第8章 木橋
第9章 可動橋
第10章 塔状構造物
第11章 まち並み
第12章 トンネル、土構造、その他
第13章 解説 土木遺産とは何か?
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価格は2400円+税と少し高価ですが、全国の土木遺産を写真で眺めることが出来るので、土木好きの方にはお宝本になると思います。
「第2章 ダム、堰堤、河川構造物」では、「牛臥川階段工(長野)」の、緑の森の中の灰色の階段を水が滝のように流れていく素晴らしい写真に目が釘付けに。
また「第6章 石橋」の「諫早眼鏡橋(1839年建設)(長崎)重要文化財指定第一号の石造アーチ」は、1957年の諫早大水害の後に解体されて元の橋の位置から400mほど上流の公園に移設されたそうですが……いったいどうやって、こんな巨大な石橋を運んだんでしょう? すごく気になりました。またフランスのサン・ベネゼ橋は、「……橋の上で輪になって踊ろう♪」の歌詞にでてくるアビニョンの橋だそうですが、「17世紀末に橋の途中で破壊されたまま架け替えられずに、途中で行き止まりのまま現在に至っている」のだとか! あの能天気な感じがするほど明るい歌の橋には、実は戦争破壊など苦難の歴史があったのですね……(涙)。
そして「第7章 鉄、鋼橋」によると、明治時代初期の日本の鉄橋の建設では、技術者だけでなく、材料の鉄そのものも海外から輸入していたそうです。鉄を日常品の「小物」に使うことはあっても、鉄橋など「大型」のものはなかった明治以前の日本には、大型鉄材の加工技術がなくて、「明治政府は、加工設備を輸入し、官営工場を設立してお雇い外国人技術者を雇用し、建設を行うという実践と通じて欧米の進んだ技術を習得していった」のだとか。昔の人たちの努力と意欲をありありと感じさせられました。
さて、土木遺産の共通的な特徴の一つは、「本来の機能が継続していること」だそうです。
「「遺産であるが稼働している」のではなく、本来の機能を果たしているインフラが文化財としても評価されて「土木遺産になった」のである。」
だから「進化する文化財」として、どうしても「老朽化にともなう維持補修」が必要になります。老朽化した土木遺産は、「明治村にある旧品川灯台」のように「機能を停止して保存展示」する道を選ぶのか、「元の形をある程度残した形で改築補修工事」する道を選ぶのか、選択を迫られることになるのでしょう。……この本は、「変化する」土木遺産の歴史を記録するものとしても役に立つのではないでしょうか。
日本各地の土木遺産について、総合的に知ることができる図鑑です。運河や橋など、巨大構造物が好きな方は、ぜひ読んでみてください☆