『小水力発電が地域を救うー日本を明るくする広大なフロンティア』2018/1/12
中島 大 (著)

山村を活性化し、地域の人々を元気にする小水力発電の大きな可能性について書かれた本です。
「「海の幸と山の幸」この言葉が示すように、昔の日本では、山間地の自然の恵みが富として都市に流れ込んでいました。ところが今は、エネルギー(かつては薪炭が中心でした)や木材など多くの資源を輸入に依存しており、海外から港を通って入ってくるようになりました。」
という文章が「プロローグ」にありましたが、確かに今では「経済性」のために、木材もエネルギーもその多くを海外からの輸入に頼っているのが現状で、不便な山村は過疎化が進んでいます。でも「町育ちの人たちばかりになると、社会が脆くなります」し、自然豊かな山村の環境(生活)を維持することや、エネルギーを分散させておくことは、日本の社会を今後も強く保つために、いろいろな意味で重要なことだと思います。
この本は、山村の地域活性化のための「小水力発電」について、多くの事例紹介を通して、具体的な方法・考慮すべきことなどを教えてくれます。
例えば「第1章 小水力発電で岐阜の山村が復活」では、岐阜県郡上市白鳥町石徹白地区の二つの小水力発電の事例が、その経緯とともに詳しく紹介されます。ここでは「農業用水」を活用していますが、その一つの石徹白番場清流発電所(2016年6月運転開始)は、発電と地域振興を目的にした新しい農協を設立して運営され、総工費2億3000万円、全電力をFIT制度(固定価格買取制度)により売電しているそうです。
総工費2億3000万円(もちろん他に維持費も必要)……意外なほど高額でしたが、農家が減少している現在、放っておけば、「農業用水路を維持する費用」を農家が負担しきれなくなるおそれがあるので、検討する価値は十分ありそうな気がします。実は農業用水路には、「空き断面(流そうと思えば水を流せる、空いている面積がある)」があるので、小水力発電に活用しやすいのだとか。著者の中島さんは次のように言っています。
「日本の水田農業を支える水路網。その水路を維持管理して子孫に手渡すために、土地改良区などの農業団体が水路網を有効活用して発電事業を行い、現金収入を得て維持管理費を捻出する……ハード(土木設備)の面でもソフト(組織)の面でも、既存インフラを有効活用する賢い方法だと私は思います。」
また「棚田発電は大きな高低差が有利に働く」そうで、手間のかかる棚田の場所には、小水力発電の電力を活用した農業用ハウスを作って、IoT技術を活用した「自動農場」を運営することが出来るのでは? とも考えてしまいました。
ただし小水力発電には、「川という公共物を使うからには地元の同意が不可欠」とか、「きちんとした水理計算を行わずに作ると、水路から水が溢れて周辺の道路や宅地が水浸しになる危険性」とか、「規模が小さくなるほど経済効率が悪くなる(1000kw以下の小水力発電では赤字になる可能性大)」など、多くの困難もあるようです。
それでも、農業用水をきちんと維持して山村の生活を守ることは、地域の活性化だけでなく、さまざまな災害に強い人材を育てることにもつながりますし、地域内でエネルギーを確保できる場所が多くなることは、いろいろな意味で日本の社会を強くすることになると思います。「小水力発電」は、そのための施策の一つとして、かなり有望なのではないでしょうか。ぜひ読んでみてください。