『ファクトチェックとは何か (岩波ブックレット) 』2018/4/6
立岩 陽一郎 (著), 楊井 人文 (著)

「ファクトチェック」とは、政治家の発言やマスメディアの報道、ウェブ上で広く流布されている情報など、社会に重要な影響を与えうる言説を対象として、それを客観的に検証することで、この本は、ファクトチェックの作法と原則を紹介する、日本で初めての概説書です。
アメリカのトランプ大統領の発言の8割は「真実」とは言えない……「ファクトチェック」と呼ばれる真偽検証により、アメリカのジャーナリズムはそう判定したそうです。アメリカ大統領選で一気に問題視されるようになった「フェイクニュース」や「デマ」。これらの意図的・非意図的に流通されるニュース・言説の「ファクト」を、客観的に検証することは急務ではないでしょうか。そのための新たな手法が「ファクトチェック」。これを行うことで、ウソの情報によって分断や拒絶が深まることを避け、事実を積み上げることで民主主義の力を底上げできるのだそうです。
ところで私は「ファクトチェック」とは、要するに「事実確認」のことなのだろうと勘違いしていましたが、この二つは違うそうです。
「事実確認」の方は通常、「取材や調査のプロセスで慎重に事実関係を調べる」ことを意味していて、「調査の過程で不正確な情報は除外し、確実に事実と確認されたことを前提に発表を行うが、「ある情報が不正確だった」ことを積極的に公表することはない。」のに対し、「ファクトチェック(真偽検証、真実性検証)」の方は、「公表された言説を前提に、その言説の内容が正確かどうかを第三者が事後的に調査し、検証した結果を公表する営み。」なのです。
そして「ファクトチェック」の基本的な流れは、「1)チェックすべき言説を選択・特定し、2)事実化どうか、裏づけとなる証拠(エビデンス)があるかどうかを調査し、3)調査結果に基づきその言説の正確性評価を行い、4)記事化します。」になります。
また、その「基本原則(ファクトチェック綱領(2016年9月))」は、1)非党派性・公正性、2)情報源の透明性、3)財源と組織の透明性、4)方法論の透明性、5)訂正の公開性の5つから構成されているのだとか。
ファクトチェックを行う人(ファクトチェッカー)は裁判官のような役割を果たすので、それを行う人は極力、まず予断(思い込み)や主観を排して、本当に事実であるかを虚心坦懐に、フェアに探究する精神が求められるのだそうです。
「ファクトチェック」に関しては、日本では、この本の著者の一人の楊井さんが立ち上げた「GoHoo」というサイトなど少数のサイトしかありませんが、海外にはすでにいくつかのサイトがあり、精力的に活動しているようです。
ところで「バズフィード」が、2016年に医療系サイトウエルク(WELQ)に不正確な記事が多数あることの問題を追求したことは記憶に新しいですが、これは「個別の記事の正確性をいちいち検証するというより、デマサイトの運営者の正体を明らかにするもので、ファクトチェックの手法をとっているわけではなく、ディバンキング型調査報道と言ってもよいでしょう(ディバンキングとは、都市伝説のような神話や虚構の正体、からくりを明らかにする営み)。」なのだそうです。
なるほど、「ファクトチェック」は「個別の記事を対象」にするものなので、デマサイトのような存在を一気に閉鎖に追い込むものではないのですね。手間暇のかかる、すごく地道な活動のようです。だから私たちもこの活動に「市民として協力」すべきなのでしょう。この本では、次のように言っています。
「(前略)様々なバックグラウンドをもった市民が正確性に疑義のある情報・言説を見つけて事実関係を調べ、その調査結果をメディアが最終的に裏づけをとり記事化する、そんなコラボレーションが実現すれば理想的ではないでしょうか。」
……この活動には「市民として協力」することには、「誤情報に惑わされない」「誤情報を出さない」人間に育つ・人間を育てるという教育的な価値も大いにあると思います。
最後に、「おわりに」の中の次の文章を紹介させていただきます。
「ファクトチェックはフェイクニュースを一度に無くす特効薬とはなりません。しかし、ファクトチェックが広く普及して多くの人が実践することで、事実を重視する社会がつく出せます。その社会は、フェイクニュースに強い社会と言っても良いでしょう。」
……私たち一人一人が「ファクトチェック」する技能を持つことの重要性を、痛感させられました。この岩波ブックレットは、70ページと薄く、580円+税の低価格なのに、内容がすごく充実しています。ぜひ読んでください。お勧めです☆