『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』2007/12/7
細谷 功 (著)

インターネットなどを通して「情報(知識)」が簡単に手にはいるようになった現在、これから本当に重要になってくるのは情報ではなく、膨大な情報を選別して付加価値をつけていく創造的な「考える力」、すなわち「地頭力(じあたまりょく)」あるとして、その鍛え方を教えてくれる本です。
地頭力の本質は、「結論から」「全体から」「単純に」考える3つの思考力なのだとか。つまり「結論から」考える仮説思考力、「全体から」考えるフレームワーク思考力、「単純に」考える抽象化思考力の3つで、これらの思考力(地頭力)を鍛える強力なツールとなるのが「フェルミ推定」なのだそうです。
「フェルミ推定」とは、「つかみどころのない物理量を短時間で概算すること」を呼ぶ言葉で、伝統的にコンサルティング会社の採用面接の場などで、「地頭力」を試すための質問として用いられてきたのだとか。例えば、「日本全国に電柱は何本あるか?」というような問題が出されて、それに回答するまでの思考プロセスを見ることで、その人の「地頭力」を評価するそうです。ここで大切なのは、「結果の精緻性ではなく、解決に至るまでの思考プロセス」なので、たとえ推定した結果の数字が、実際の電柱の数と大きくかけ離れていても、あまり問題にはならないようですが……いつもアンテナを張って、常識的な情報をつかんでおくことも地頭力を鍛えるためには大切なようです。
そして「結論から」「全体から」「単純に」考える3つの思考力についても教えてくれます。
まず「第5章 「結論から考える」仮説思考力」では、仮説思考力とは「いまある情報だけで最も可能性の高い結論(仮説)を想定し、常にそれを最終目的地として強く意識して、情報の精度を上げながら、検証をくり返して仮説を修正しつつ最終結論に至る思考パターン」で、そのポイントは、「どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢、前提条件を設定して先に進む力、時間を決めてとにかく結論を出す力の3点」であることなどが説明されます。
次に「第6章 「全体から考える」フレームワーク思考力」では、フレームワーク思考力の全体プロセスが、「全体俯瞰→切り口の選択→分類→因数分解→全体再俯瞰&ボトルネックの発見」のように進み、その目的は「思考の癖を取り払って、コミュニケーションを効率的に進めるとともに、ゼロベースで斬新な発想を生み出すこと」にあると示されます。
そして「第7章 「単純に考える」抽象化思考力」では、抽象化思考力の基本プロセスが、「抽象化→解法の適用→再具体化」の3ステップで進み、そのために必要なポイントは、「モデル化、そのための枝葉の切り捨て、アナロジーの考え方の3点」で、この抽象化思考力によって応用力を飛躍的に向上させることができることなどが説明されます。
全体としては、「フェルミ推定」の具体的なやり方というよりは、「結論から」「全体から」「単純に」考える3つの思考力に関する概念的な解説の方が多かったと思いますが、これら3つの思考力を駆使する(「地頭力」を鍛える)ことの重要性が理解できたように感じました。なお「フェルミ推定」についても、巻末に3つの練習問題(「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」「世界中で1日に食べられるピザは何枚か?」「琵琶湖の水は何滴あるか?」)があり、回答へのアプローチや考慮すべきポイントなどが簡単に解説されているので、「フェルミ推定」の方法も学ぶことが出来ます。
急速に賢くなりつつある人工知能によって、将来は「人間の仕事を奪われる」かもしれないと懸念されています。現在はまだ「深く考える力」は人間の方がずっと上だとはいえ、やりがいのある楽しい仕事を今後も続けていけるようにするためにも、「地頭力」を鍛えたいと感じさせられました。ぜひ読んでみてください。