『死体は嘘をつかない (全米トップ検死医が語る死と真実)』2018/1/31
ヴィンセント・ディ・マイオ (著)、ロン・フランセル (著)、満園 真木 (翻訳)

45年にわたって9,000以上の事件を検証した検死医が語る、知られざる検死捜査の世界を描いた傑作ノンフィクションです。
最初の「1 白と黒の死」で取り上げられるのは、2012年に発生した、白人の自警団の男が17歳の黒人少年を射殺した事件で、オバマ前大統領が「トレイヴォン・マーティンは三十五年前の私だった可能性がある」と発言したほど全米を揺るがした大事件です。
この事件の検死を行ったディ・マイオさんは、この事件を「これは文化的見地からはたしかに複雑な事件だった。しかし法医学的にはまったく複雑ではなかった。悲劇的なまでに単純だった。」と言っています。黒人蔑視の白人が無実の黒人少年を冷酷に射殺した事件と騒がれたこの事件は、衣類や死体の状況から、自警団の男の正当防衛が認められる結果となりました。
ディ・マイオさんは検死医の仕事について、こう言っています。
「我々の判断は、死者以上に生者に影響をおよぼす。死者にはもうなんの憂いもないが、生者は刑務所行きの恐れがある。ウィルスや細菌から救われる命があるかもしれないし、誰かの潔白が証明されるかもしれない。疑問に答えが出たり、疑惑が裏づけられたりすることもありうる。だからこそ、検死医には偏りのない、事実にもとづいた科学的結論を出すという重い責任がある。死亡した人物の家族や友人、敵、隣人が何を望んでいようと、真実はつねに、人がこうであってほしいと望むことよりも上にあるのだ。」
検死は「死者のため」に犯人を暴き出すだすため以上に、「生者への冤罪を防ぐ」ために重要なのだと、強く感じさせられました。
この他にも、内縁の妻殺しで起訴された男の弁護士から見せられた現場写真を見て、その銃創の状況から、事件が「殺人」ではなく「自殺」だと見抜いた話など、探偵小説のドラマティックな展開みたいな実話がどんどん出てきて驚かされます。
さらに「周囲で十人もの乳幼児が突然死していた女性の戦慄の姿」とか、「ケネディ暗殺の犯人として埋葬された死体は本当にオズワルドなのか?を確認するために実際に墓の掘り返した話」とか、「ゴッホの死の謎」とか、科学的な見地から解き明かされていく(再現される)状況には、納得させられると同時に、本当に人気テレビドラマ「CSI」を見ているようで目が離せなくなります。もっともディ・マイオさんは、「銃弾の穴はつねに入口のほうが小さく、出口のほうが大きいというのは、科学捜査にまつわるある種の神話のようになっている。これはメディアによって広められたものだが、テレビや映画で銃創が正確に描かれることはほぼない。」と冷静に言っていますが……。
さて、この本のタイトルが『死体は嘘をつかない』だったので、「CSI」のような「遺体から解き明かされる謎」がメインなのだろうと思っていたのですが、実際には、「検死医の仕事」が淡々と紹介されていく「検死医ディ・マイオさんの半生」を描いたものでした。原題は、『MORGUE A Life in Death』なので、原題の方は内容と合致していますが、邦題を見て、スリリングな謎解きだけを期待した方にとっては、ちょっと期待外れだと思うかもしれません。でも、ミステリーな小説のような事件の謎解きとともに、検死医の仕事の重要性や現実(大変な仕事の割に、意外なほど給料が安いようです)も知ることも出来て、とても有意義だったと感じました。ぜひ読んでみてください。
防犯カメラやDNA鑑定、そして「検死」などの科学技術の発展が、犯罪者の逮捕に役立ち犯罪の抑止につながることと同時に、「冤罪」を防ぐことにも役だって欲しいと強く願っています。