『技術の街道をゆく (岩波新書)』2018/1/20
畑村 洋太郎 (著)

「現地」を触れ、「現物」に触れ、「現場」の人と議論する。この「3現」をモットーに全国のさまざまな技術の現場を訪ね歩いてきた畑村さんが、日本の技術が生き残る道をさぐるエッセイ集です。
タイトルの『技術の街道をゆく』は、畑村さんの愛読書、司馬遼太郎さんの『街道をゆく』への敬意を表して付けたそうです。みなさんご存じの通り、司馬さんの『街道をゆく』は、その土地の歴史や風物を語る紀行文集ですが、この『技術の街道をゆく』は、畑村さんの「失敗学」の源流をたどる旅であるのと同時に、日本の技術者が将来への活路を見出し、生き残る道をさぐるための旅でもあるそうです。紀行文集とも言えますが、メインテーマは現地の美しい風景ではなく、現地の「技術が活かされる現場」「技術者」で、内容(目次)は次の通りです。
第1章 鉄の道をゆく
第2章 たたらの里をゆく
第3章 津波の跡をゆく
第4章 ミクロの世界をのぞきに行く
第5章 技術の系譜をたどる
第6章 道なき道をゆく
付録 考えを作る―思考展開法とは何か

アメリカ政府による鉄屑の輸出制限で安い屑鉄が手に入らなくなったことに苦しんだ日本は、より高度なLD転炉を導入し従来の生産システムを見直し作り変えることで、結果的にアメリカの製鉄業を追い抜くほど成功をおさめたという「第1章 鉄の道をゆく」から始まって、日本の製造業の現場で行われてきた創意工夫が次々と紹介されていきます。技術的な話ばかりなのですが、紀行エッセイ的な部分もあるので、気楽な気分で楽しく読み進められます。
「技術の失敗と技術の継承は切っても切れない深い関係がある。きれいに出来上がったものを人からもらうのではなく、ジタバタ試行錯誤して何度も失敗しながら、自分自身の頭と体で獲得する。そうして初めて、技術は「伝わる」のである。」
この本はエッセイ集ですが、技術者の試行錯誤の経緯や、市場獲得への努力が丁寧に描きこまれているので、すごく参考になる部分が多かったと思います。
個人的に特に参考になったのは、「第6章 道なき道をゆく」のホンダとコマツの話。
例えば、インドネシアのコマツは、「リマン(一度売った機械を回収し、完全に分解して補修・再組立てを行って、新品とまったく同じ性能を保証して売る商売)」を行っているそうですが、「リマンの際に、使われなくなった機械に何が起こっているかを調べてデータ収集することで、新品の設計におけるギリギリの限界が設定できるようになるらしい。このように、時間軸を長くとってデータを収集するという考え方は、これからとても重要になってくる気がする。」には、「リマン」という方法がいかに優れているかだけでなく、それを実行しているコマツという会社の凄さを、あらためて痛感させられました。
またベトナムで、ホンダのバイクが中国製のイミテーションに市場を奪われかけたときに、ホンダが「故障部品の純正(ホンダ)化」から市場の奪回を始め、最終的に「ベトナムの市場を奪還しただけでなく、ベトナムの人たちが求めている、安くてきちんと動く、信頼性のあるオートバイを提供できるようになった。」という話は、すごく痛快でした。
日本の技術がこれから生き残る道は決して楽ではないと思います。
「われわれは、道なき道をゆかねばならないのである。」
それでも、この本は「生き残り」のヒントをたくさん与えてくれたように感じました。
しかも付録として、「考えをつくる」ための「思考展開法のプロセス(「1)種出しをする」→「2)くくり図を作る」→「3)思考関連図を描く」→「4)課題を選ぶ」→「5)思考展開図を描く」)」も紹介してもらえます。
面白くて歴史の勉強にもなる、司馬さんの『街道をゆく』と同じように、この『技術の街道をゆく』も、面白く読めるのに、技術力を高めるためのヒントがたくさん拾える素晴らしいエッセイ集でした。ぜひ読んでみてください。